「女の子は誰でもプリンセスになりたい」
この言葉に殺意が湧いた回数は一度ではない。
私は幼少時代から、あまりお姫様にテンションが上がらないひねくれた子供だったため、この言葉が嫌いだった。大人になったらもっと嫌いになった。
わたしが今憧れるのは、いわゆる「悪役」である。

最長2時間尺の不幸で最短の幸せを掴むプリンセス達

「多くの困難、幾度とない苦難を乗り越えてプリンセス達は幸せを掴む」
冷静に考えよう。まずプリンセスに年増はいない。
人生において20年以上苦しんでいては、その時点でプリンセスではすでにない。
ちょっと長くても1時間半か2時間程度の映画の世界の範囲で収まる、かつシンパシーを得られる非常にわかりやすいタイプの困難の幼少期を経て、尺に収まる運命の出会いを踏まえてお城に戻り、プリンセス達は恋愛的な幸せを得ることになる。
まぁ人生で早々に手頃で順当な幸せを手にしていくこと。よく、「青春」と人生を季節で表現する例はあるが、人生を春夏秋冬に例えるとするなら、彼女達は春や夏でもうこのフェイズに突入する。特に田舎ではよくあることである。

人生に苦しむいい歳の私は、プリンセスの条件や有効期限から外れた

勉強ができても、いい学校に行っても、都会で正社員の席についても、地元に住んでそこそこの短大・大学を出るとか、派遣で働いている方が「立派」だったりする。
地方では地元に残り、数ミリでも「プリンセス」となれる要素を残して生きている女性の方が偉かったりする。若くして、そこそこの困難をふまえ、愛され、結婚をすることが優秀とみなされるのだ。これも田舎ではよくあることである。
悲しいかな、自分は人生の春を「勉強しろ」「家族のために我慢」と夜の明けない暗い春をすごし、人生の夏をこれまた勉強とブラックな雇用体制、ハラスメントが飛び交う職場の中で冷夏で過ごしてしまった。実りの秋は見込めない。戻るお城として候補となりうる地元は観光地と水の美味さについては推せるが、たっぷりいじめを受けて育った手前生活環境としては大嫌いであるため、戻る場所ではない。
地元を離れ、以前婚活時に「ちょっとうまくぼかした方がいいですよ!」と言われてしまった中途半端に異性のプライドを削いでしまう学歴を担いて都市にて正社員で働いている今、人生に長く悩み苦しみ続けているいい歳の女はこの時点で「プリンセス」としてはすでに大敗している。というか時遅しである。

知恵とガッツで戦う悪役に、歳が、人生が、世界が、環境が追いついた

そんな今、子供の頃こそ「なにそれ」とひねくれていた私を救ってくれたのは、悪役たちの姿だ。
悪役の皆さんは、若さに負けることが多いかもしれない。幸せになれないかもしれない。
ただ、お姫様を国外追放するくらいの権力を築き上げ、毎回ちびっ子どもが飽きない怪人や悪事を創意工夫で作り出し、ひたすら努力し、若者に引けを取らない、良い意味で厄介な骨がある。生育環境に問題があったり、容姿に恵まれなくとも、一定の地位をなんでも吸収した末に成果を出している姿も見られ、やられても諦めない。法に手を染めたいとまではいかないが、そんな彼女たちのストイックさやハングリー精神を見習った、強いババアに私はなりたい。
むしろ妙齢の女性から老婆まで、ずっと目指せるこの立ち位置。プリンセスより夢はないかもしれないが、続けられる希望がある。

近年は、悪役にもスポットライトが当たるようになり、ハロウィンの時期にテーマパークではショーも行われるくらいになった。ライトノベルでは悪役令嬢ものが人気を得るようになり、悪役産業も以前より潤沢になってきた。やっと「悪役が好き」という言葉が気持ちよく名乗れるようになってきた。
クーデターを狙ったり、一攫千金を狙ったりできるような、綺麗な美人の若い子にも知恵とガッツで戦えるような強い悪役のババアになりたい。やっと歳が、人生が、世界が、環境が追いついてきた今、私ははっきりと憧れを言い放てる。

私は悪役や最強の魔法使いのババアに憧れながら、日々を進んでいる。
下を向いて、王子様を待ち、幸せを与えてもらえる時期はとっくに過ぎている。上を向いて自分の人生を胸に諦めずに前を向いて生きていきたい。
子供の私に、辛いことがあっても大人になるまで頑張って。闇堕ちからがあなたの人生よと、悪い顔でエールを送りたい。