コロナ禍の中、私には新しい趣味が一つできた。YouTube鑑賞だ。
コロナウイルス感染拡大の影響で、一番の趣味であった旅行ができなくなってしまった。
せめて旅行気分だけでも味わおうと、YouTubeで旅行動画を漁り始めた。
夢中になるのに時間はかからなかった。
視聴する動画のジャンルも広がった。ファッション、コスメ、アート、教養……。
当初は作業用BGMツールだったYouTubeが、私の趣味を深堀するきっかけとなった。
◎ ◎
趣味の一つである読書をテーマにした動画を視聴することも多くなった。
読書系YouTuberを何人かフォローしていたが、その中でも特に好きだったのがSさんの動画だ。
Sさんは読書好きだが、それを視聴者に強要しないスタンスに救われた。
私は読書が好きだが、読書量が特別に多いわけではなく、小説から学術書まで幅広く読む。特に学業に没頭していた時期は、学術書や論文ばかり読んでいた。
「読書=小説」というイメージが強いため、「趣味は読書です」と堂々と言えなかった。
しかし、Sさんの動画を観て、「読書は自由でいいんだ」と気付かされた。
紹介する本は図録から漫画まで幅広く、Sさんの親近感のある言葉遣いから、読書を堅苦しく思わなくていいんだと感じた。
実際にSさんが紹介した本を手にして、読んだこともある。
また、Sさんは私と年齢がほぼ一緒だ。普段の仕事やYouTube活動だけでなく、転職活動にも勤しんでいた。その様子もvlogとして投稿していた。
当時、企業から内定を貰っていた私にとって、Sさんの転職活動は他人事ではなかった。
いずれは転職するだろうとは考えていたし、同世代の転職事情はとてもリアルであったからだ。
Sさんの活動を応援していたし、私の心の支えでもあった。
◎ ◎
私が就職してしばらく経ったある日、SさんのYouTubeアカウントが削除されていたことに気が付いた。
それと同時に、購読していたSさんのメルマガが届いた。YouTubeを含めた発信活動を全て終了するとのことだった。
雷を受けたような衝撃を受けた。今まで何の変哲もなく、動画を投稿していたから。動画でのSさんは楽しそうで、「らしさ」が出ていたから。
でも、その裏でSさんはたくさん悩み、苦しんでいたのだ。
私は後悔した。なぜ今まで動画を観ていただけだったのだろう。いいねを押してただけなんだろう。
コメントやダイレクトメッセージで、応援や感想を伝えればよかった。
もう遅いと分かっていたが、Sさんのメルマガに返信した。
「Sさんの動画を観て、本が好きだという気持ちにテンプレはないんだと気が付きました」
「同世代で、ずっと応援していました」
「素敵な本を紹介してくれてありがとうございました」
「最後に紹介してくれた本は、私に良い影響を与えてくれました。大切にします」
「好きなものに囲まれて、マイペースに過ごしてください」
◎ ◎
それから約1年が経った。私は会社を退職し、当時のSさんのように転職の準備を進めている。覚悟はしていたけど、退職後の手続きも、企業探しも、将来に不安を抱く生活も、正直辛い。きっと、Sさんも今の私と同じ気持ちだったのだろう。
そんな中、あるメールが届いた。相手は何とSさんだった。
YouTube活動を再開するという報告のメルマガだった。
どれだけ嬉しかっただろう。また、Sさんの動画を観られるんだ。
そして、変わらずSさんは、ラフに本を愛していた。
Sさん、おかえりなさい。
戻ってきてくれてありがとう。
これからも視聴者として、一緒に本を愛していきたい。
どんなSさんも、応援していきたい。
そして、私の周りにいるお世話になっている人や、支えてくれている人に対して、「ありがとう」の言葉や気持ちを惜しまず伝えていこう。