これは、私が大学生の時の話だ。
私は、自分から友達を作ったり、人に話しかけるのが苦手だ。できることならば、一人でずっと過ごしていたいと思う。しかし、生活をするにあたって、誰かと関わらないことは不可能なのである。

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大学に入学して間もない頃、入学式でたまたま席が隣になった子と友達になった。彼女と昼休みを終え、次の授業がある部屋へと向かう。食堂を出て、エレベーターで教室のある階まで上がったら、長く奥まで続く廊下を歩いて進む。授業がある部屋の前に着いたはいいが、教室には人の気配がない。電気はついており、扉の鍵は開いているものの、物音はほとんどしない。授業開始までに、20分ほど余裕があったからなのだろうか。
5分ほど、ドアの前で友達と二人で待ってみる。それでも、誰もやってくる人はいない。それに、大学に入って間もないことがここでもう一つ問題を作り上げた。
同級生の顔を覚えていないのだ。誰が同じ授業を受けるのかもわからないまま、ただ時間を潰すこととなった。

これ以上待っていては遅刻する、と、意を決して目の前の教室のドアを開けたとき、これがありがとうを伝えたい“あの人”との出会いだった。

ドアを開け、真っ先に目に入った一人に声をかけた。
「同級生ですか?次の授業ってこの部屋で合ってますか?」
すると、ニッコリと微笑んでこう答えた。
「そうです!良かった!私、間違っているかと思った」
なんと、私たちと同じように悩みながらも教室に入り、座っていたのだ。

すぐさま打ち解けた私たちは、その日の授業を一緒に受けた。
この日の出会いが、卒業までの4年間、ずっといっしょにいてくれる友達となる。

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第一印象は、笑顔が似合う小柄な女の子。カジュアルな服装と、それに合わせた髪型で可愛らしくもあり、清潔感やきれいといった印象を持つ。
性格も、明るくて、まっすぐ素直。イメージカラーは、オレンジや黄色。
私がお手本にするべき明るさを持っている子だな、と思った。
その子は、相手を差別したりはしない。後に彼女を知っていくと、いろいろ思うところはあるみたいだったが、決して排除しようとはせず、関わっている人全員に平等に接していた。

当時の私は、おしゃれや身だしなみにはほとんど興味がなく、すっぴんで学校に行くことも疑問に思っていなかった。昔から引きずる根暗な性格で、ネガティブ思考が通常モードでもあった。近くでコソコソと話し声が聞こえてくるならば、自分のことを言われているのだと決めつけるほど被害妄想が激しいときもあるくらいだ。
そんな私にも、誰かによって態度を変えることなく接してくれる友達に、大きな刺激を受けた。

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彼女は、人のいいところを見つけるのがとても得意なのだ。
「〇〇ちゃん、すごくわかりやすく説明してくれる」
「△△さんは、真面目で勉強熱心だね。すごいね」
というように、相手のことを前向きに捉えていたのだ。
彼女がよく笑ったり、私から見て輝いて見えるのは、こうしたポジティブなものの見方が影響しているのかもしれない。

それに気づいてから、私も相手のいいところを見つけるようにした。自分が発する言葉も、プラスの捉え方ができる言葉を選んだ。
彼女以外の友達と話すときも、自分の中で何かを理解するときも、プラスに捉えられる言葉を使った。すると、心なしか視界が明るくなったような、拓けたような、そんな気がした。今まで自分の闇にしか閉じこもっていなかった私が、ようやく外の光を感じられたような気がした。

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大学を卒業し、社会人になった今でも、ふとした時に彼女を思い出す。
仕事で疲れて、課題山積で、苦しいと感じている最中こそポジティブに自分を鼓舞して向き合うようになった。相手を、第三者を決して否定しない。強く押しつぶさないように相手を分析して向き合っていくと、自分のなかで線引きができるようになった。

そして、今の自分の人生の送り方にも影響している。
楽しいこと、ワクワクすること。すなわちポジティブなことを真っ先に考えて行動するということ。

いいとこ見つけが得意な彼女との出会いや、大学4年間の関わりが、私にとてつもなくいい影響を与えてくれた。だから、ありがとうを伝えたい。
偶然の出会いが、まさかここまで大きな存在となるなんて。社会人として、互いに離れた場所で活躍する私たちとなった今でも連絡を取り合う仲になるなんて、誰が想像できただろうか。

本当に彼女には感謝しかない。出会えて良かった。