中学生の頃、好きだった先生がいた。
1年生の時に担任の先生になって、そのあと3年間英語を教わった。
確か30歳くらいだったけど、笑ったときの目元の笑いジワが子供みたいで、そこがすごく可愛いなと思っていた。

3年間ずっと好きだった先生。恋の仕方が分からないなりに書いた手紙

好きだった。ずっと。3年間、多分、ずっと好きだった。
私は先生に良い子だと思われたくて、授業も課題も真面目に取り組んで、定期テストでは3年間ずっと良い点数を取っていた。だからテスト返却のたびに先生は、「今回も頑張ったなぁ」って褒めてくれて、それが嬉しかった。

でも先生は、優等生の私より、どうしようもないような点数を取る子をいつも心配していた。そして、私よりも、そういう子の方をどこか可愛がっているようにも見えた。
私はそういう生徒だったし、先生はそういう先生だった。

だから、マイルドヤンキーも明るくて馬鹿なテニス部の女の子も、中学生らしく「キモい」とか言いながら、皆先生のことが大好きだった。
私は、好きだってバレたら恥ずかしいから時々皆の真似して「キモい」とか言ってみたけど、勿論本当は全然そんなこと思ってなかった。英語の質問をしに職員室に行った時とかそういう、たまにある二人だけの時は絶対にキモいって言わなかったのを、どうか気づいていてと願ってばかりいた。

3年間、そんなことしかできなかったから、せめてと思って卒業する前に手紙を書いた。
私は恋の仕方が分からなかった。親友に同じクラスの彼氏ができて話をたくさん聞いていたけれど、先生とは夜メールしたりとか、放課後待ち合わせて一緒に帰るとかないし、ただでさえ恋愛経験のない私はいよいよどうすればいいのか全く分からなかった。
けど、好きで好きで仕方なかったから何かしなくちゃどうしようもなくて、手紙を書くしか術がなかった。

精一杯の思いで綴った感謝の想い。渡す決心をして先生のクラスへ…

手紙には、好きだとか付き合って欲しいとか、そんなことは書けるわけもなくて、ただ、3年間の感謝の気持ちを綴った。恋の仕方が分からないなりに、こういう時くらいは素直になった方が少しは印象に残るんじゃないかと思った。

でも、それが精いっぱいだった。卒業式の日に渡そう。そう決めて、メールの下書き保存に書いては消して書いては消して、最後はお気に入りの便箋に清書した。

卒業式まであと3日だった。

私は放課後、先生のクラスに足を運んでいた。友達を探しにきた、っていう設定で、私は偶然を装って週に1回くらいのペースで先生に会いに行っていた。そろそろこれが本当に最後だな、って思いながら、いつもより整えた髪を揺らして、ピンク色のリップクリームを塗って先生のクラスに行った。

ドアが閉まっていたからいないのかなと思って、教室を覗いた。
先生はいた。
でも、先生だけじゃなかった。

教室を覗き込むと笑い合う二人の姿。書いた手紙は家に帰って捨てた

先生と、先生のことを誰よりも一番「キモい」って言ってた女の子が、心底楽しそうに2人きりで話していた。
何がそんなに可笑しいのか2人で笑い合って、教室を覗き込む私にはまるで気付かない様子だった。無防備なその子は、机の上に座って、短いスカートからむっちりと可愛らしい太ももをのぞかせて屈託のない笑顔を見せていた。

先生はその子の肩を叩きながら、声を出して笑っていた。ドアはぴったりと閉まっているはずなのに、私の耳には先生の笑い声が突き刺さるように聞こえてクラクラした。その子に笑顔を向ける先生は、やっぱり目元の笑いジワが子供みたいで、可愛いなと思った。
すごく、すごく可愛いなと思った。

たったそれだけ。たったそれだけが、私にとっては全てだった。
家に帰って、手紙は捨てた。卒業アルバムの寄せ書きは、先生からだけ、貰わなかった。

あの子よりもずっと英語のテストの点数は良かったし、あの子と違って授業で寝たことはなかった。でも多分、そういうことじゃなかったんだと思う。そんなことは最初から分かっていた。分からないふりだけを、3年間、一生懸命していた。それが、卒業式の3日前にとうとう目を背けられないほど突きつけられてしまった。それだけだ。

ミニスカートの中学生を見ると今も思い出す。
あの手紙に書いた、「3年間ありがとうございました」の文字を。