「将来は社長になりたいと思ってるんだ」
恥ずかしそうにそう言う、彼が大好きだった。私たちはまだ高校生だったくせに、「結婚式はヒルトンホテルが良いよね」とか「2人は子供が欲しいよね」とか、とにかく将来の事を沢山話す二人だった。
私は彼をとても大好きだったし、彼もきっと私を好きでいてくれたと思う。しかし、いざ待ちわびていた“将来”がやってくるとともに、私たちの距離はゆっくりと開いていった。

その後は、お互い別のパートナーと出会ったり、別れたりしていた。一度は復縁の話も話題に挙がったが、彼が別の女性と交際中だったことが分かり、また疎遠になった。

疎遠だった昔の「相棒」に会いたくなった

社会人4年目の桜が咲き始めたころ、彼に無性に会いたくなった。転職を機に、初めて東京を離れる決断が、私にとって期待感だけでは済まないことに気が付いたのだ。

昔の相棒に会いたい。「大丈夫だよ、頑張ってね」と信頼している人に言ってほしい。藁にもすがる思いで共通のトークグループから彼の名前を探す。見つけて、ブロックを解除する。トーク画面が戻ってくる。最後のトークは緑の吹き出しの「あなたの彼女の牽制、怖すぎ、ごめん」だ。

そういえば、そんなこともあったなと思い出しながら、慎重に文章を考える。相手のパートナーに疑われるような下心はないことを伝えたい。爽やかな文章がいい。
「引っ越すことになったので、最後に会えませんか」
平日だったが、1時間ほどしてから返信が来た。その後3、4回やり取りをして、仕事終わりに会うことになった。

彼と再会し、ときめきがなくなっていることに気付いた

「久しぶり!痩せたね!」
昔と変わらず、私の欲しい言葉をマシンガンのように浴びせてくれる彼に感動しつつも、以前はあった“ときめき”が無くなっていることを体感した。

「今は、広告代理店で働いてて、あの後、海外支部の電通にインターンしてたんだ」
片方だけに社名を入れたのは、無意識なのかもしれない。いや、意識的だったと思う。その後も彼の仕事の話、つまり有名企業とのタイアップの話が続いた。
残念なことに、私は興味のない話も興味津々に聞いているように見える特殊能力を兼ね備えていたため、その話はしばらく続いた。

彼に何かを言ってほしかった訳じゃなかった。自分が、彼に伝えたかった言葉がようやく分かった。

「最高の学生時代をありがとう、お互い頑張りましょう」
そう伝えられたのは、解散後の最後のライン。会っているときに言えなかったのは、彼の「落とせそうな女には全力で落としに行く」戦法を見つけてしまったから。何を言っても肯定的に返してくれる。何を返しても褒め言葉で送り返される。
学生時代にあった、純粋な好き同士の会話ではなく、所謂“大人の駆け引き“みたいになっていた。

「ありがとう」を残して、自分で歩いていく

彼を好きな私も、私を好きな彼ももうどこにもいない。将来を、夢を共有して語り合った相棒は、大学のいつも待ち合わせていた広場にでも置いてきてしまったのかもしれない。
それは、自分だけの夢ができたお陰でもあるし、お互いの“将来だったもの”が来てしまったからでもあるのかもしれない。

とにもかくにも、私は、夢を自分で支えようと強く思えた。だから重かった将来を一緒に支えてくれた昔の相棒へ「ありがとう」を残して進んでいこうと思う。