私は滅多に恋をしない。男性にときめかないわけではない。

ときめきと恋は私の中で、明確に区別されている。私はロマンチストでありながら、どこか現実的なところがあるのだ。

幼い頃から恋愛に対して現実的だった私が、学生の時惹かれる人に会った

素敵な人を見つけてときめきを覚えても、自分の中で将来が見えなければ、それはただの“推し”として、現実のものにしたいと思うことなく自分の中に完全に仕舞い込める。だからそれは恋ではなくて、ただのときめきなのだ。

例えば私は小学生の時から、自分にも好きな人はいたのに、誰々くんが誰々ちゃんを好き、という類の話で騒ぐ同級生達に、今の年齢でそんなこと言ってどうするの、と内心冷めている子供だった。

高校生の時だって、男の子にときめくことがあっても、これから大学進学や就職など激動の変化が起こると思われる中で、一度だってその思いが恋に発展したことはなかった。大学時代に付き合っていた彼もどちらかというと安定志向で、ときめきに溢れた恋愛はしてこなかった。

そんな私が一度だけ、はっきり恋と言える恋をした。恋をする2年半くらい前、実は私は彼に会っていた。その時彼は働いていて、私は学生、あまりにも身分が違いすぎて恋が始まる予感もなかった。

ただ、2週間という短い関わり合いの中で、私はどこか彼に惹かれていった。それは、彼が仕事を頑張っている姿を見ていたからであり、彼も私の頑張りを見てくれている気がしたからであり、彼が優しい心の持ち主だと感じたからであり、何もないのに何故か2人で笑いが起ったり、どこか通じるものがある気がしたからだ。

それぞれ一瞬の、何でもない出来事が何故か強く私の中に残っていた。しかし、その気持ちは恋には発展しなかった。

2年半前に惹かれた彼がいる部署に、私も職員として行くことになった

当時私には素敵な彼がいたし、恋愛が発展する状況では微塵もなかった。向こうも私を恋愛対象としている気配は全くなく、そのことが、お別れの際に私の胸をとても切なくさせたのを覚えている。

彼は仕事にまっすぐで、常に上を目指して挑戦し続けている様な人だった。お礼を言ってもあまりにもあっさりとした対応に、あぁこの人は私のことなんてすぐに忘れてしまうんだろうな、絶対に振り向かない、そう思いながらその場を後にしたのを覚えている。その日は切なくて仕方なかったが、それから忙しい日々の中ですっかり彼のことは忘れていた。

約2年半後、彼がいる部署に私も職員として行くことになった。彼がまだその部署にいることは耳にしていたが、私は髪型もまるで変わっているし、彼は私を覚えていないだろうと思い込んで向かった初日、向こうから「頑張ってね」と声をかけて下さったことに驚いた。

嬉しかったのも束の間、1ヶ月という期限がある中、私はフリーの身とはいえ仕事を覚えるのにいっぱいいっぱいで、昔のときめきなど思い出す暇はなかった。関わることすらないかもしれないと思っていた私の気持ちが、恋に向かい出したのはいつからだろう……。

気づけば彼に夢中になっていた。彼の仕事姿にはやはり変わらず惹かれたし、彼と彼の仲のいい上司とのおしゃべりもするようになって仕事は楽しかった。彼には彼女がいないこと、いい人を探していることも知った。

ようやく仕事にも慣れてきて、私は彼に興味深々だった。彼がどんな人なのか、どんな恋愛をしてきたのか、どんな人を探しているのか……。

彼の上司が遠回しに私との縁結びの様な話をしてくれる中で、彼もそんな私をちょっと意識してくれているようなそぶりはあった。女の人達と遊んだという話に驚く私の顔色を伺うように見てきたり、私が他の男性と仲良さげに喋っているのを見て驚いていたり。1ヶ月はあっという間に終わった。

彼と気持ちが通じ合っている気もしたが、距離はまだまだ遠かった

わずかながら通じ合っている様な気もしたが、距離はまだまだ遠かった。私が一生懸命近づこうとしても何か問題が起こって近づけない。気持ちをわかってくれていそうなのに応えてくれない。

彼は数ヶ月後、留学が決まっていた。遠距離は無理と公言していた彼。付き合うとなればどう考えても遠距離不可避な状況だが、私は恋人とまではいかなくても、彼と少しでもお近づきになりたかった。今は英語はさっぱりだが、私も海外に興味がないわけではない。

部署から離れて数カ月、私は諦められず、コロナ禍だが一度だけ食事に誘った。「行けません」。きっぱりとした返事だった。

「そうですよね、留学頑張ってください!」。理由は聞かなかった。気丈に返した返信は、正解だったのだろうか。

色々なエピソードを友達に話せば話すほど、「本当にいい人なの?もっとあなたに見合ういい人がいるよ」という励ましをもらうような恋だった。でも、やっぱり私は彼が好きだ。

恋はともかく、私はこの悲しさと寂しさを忘れるべく、今まで何度も諦めてきた英語を改めて勉強し始めた。でも、やっぱり勉強するたびに思い出す。またいつか留学にも打ち勝てる様な恋ができますように。