中学時代からの親友がいる。
その子とは、中学校、部活、塾が一緒で、家が近くて、いつも坂の上で待ち合わせをして、一緒に学校に行っていた。
家族よりも一緒に過ごす時間が長かったように思う。

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部活(バスケ部)で、その子は部長を務めていた。私は全く上手くなれず、大体はベンチで、その子の活躍を見ていた。「ナイッシュー!」と寝言で言うくらい、バスケに入れ込んでいたけれど、どうしても上手くはなれなかった。
そしてその子は、頭もすごく良かった。私に勝てるところは多分、ひとつもなかったように思う。

それから15年くらい経った。負けず嫌い、嫉妬のしやすさは、今でも絶賛所持中だ。
でも中学時代、その子だけには、純粋な気持ちで応援、尊敬の気持ちを持つことができた。嫉妬を抱くことを恥じるくらい、その子はいつも一生懸命で、正義感が強くて、そして中学生くらいの時に抱くマイナスで攻撃的ななんやかやを跳ね返してくれるような綺麗なエネルギーを纏っていたから。

でも大好きだったその子とも、環境の変化とともに、やはり会わなくなった。
高校では友達がけっこうできた。しかしマイナスで攻撃的な感情は、いっそう強くなった。
大人になってからもその感情は持っているけれど、人にぶつけることはしなくなった。
そしてそれらは、YouTubeで動画を3本くらい見ればほとんどなくなっていることを知ってしまった。
ある程度、大人になってしまったのだろう。多分。

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いつのまにか27歳。
カーテンから差し込む太陽光を疎ましく思う毎日の中で、その子から久しぶりにLINEがきた。
未読無視が20件くらい溜まっていたが、通知がきた瞬間、既読をつけた。

「結婚することになった!」
私はその報告を見て、ジェットコースターで急降下する時のような、内臓のすべてが浮くような感覚を覚えた。
それは、マイナスな感情ではなかった。
あまりにプラスの感情が多すぎて、大きすぎて、ショートしたのだった。

おめでとう、と心からの言葉を送った。結婚式は絶対に行くと心に誓いながら。
そしてその直後に、
「結婚する前に会いたいんだけど、金沢旅行する気ない?」
というメッセージがきた。

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その子は金沢に転勤していたのだった。ずっと行きたいと思っていたけれど、へばりついてしまった日常に邪魔されて行けていなかったのだ。
でもへばりついた日常を吹き飛ばすことにした。どうしても会いたかった。結婚する前に、という言葉も、なんだか感傷を誘うものだった。へばりついた日常の中に、少し新しい風が吹くことも期待した。

夜行バスに揺られて金沢に到着した。金沢は快晴で、彼女は大人の空気を纏いながら、レンタカーの中にいた。
相変わらず、眩しかった。
お酒を沢山飲んで、何を話したかは覚えていないけれど、とにかく会話が途切れなかった。楽しいという感情があんなに心の隙間を埋めるものだということを、初めて知ったように思う。

明日はいよいよ帰りますよという時に、日本酒を飲みながら彼女が切り出した。
「中学生のとき、私の結婚式で曲作って歌ってくれるって言ったよね。あれ、約束だからね。私、ファン1号だから。楽しみにしてるから」
背中に電流が走ったような感覚に陥った。酔いは完全に金沢の空に吹き飛んだ。今もふわふわ彷徨っているかもしれない。
完全に忘れていたのだ。
普通なら絶対に記憶に残っているはずの大切な約束を、私は忘れていた。
鬱々とした日常の中で私は、綺麗で真っ直ぐな気持ちを、約束を、忘れてしまっていた。

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3日間、爽やかとしか言えない彼女の纏う空気を存分に分けてもらって、私は東京に帰ってきた。鬱々とした日常に、少しだけ色が付いた。
そして、その子と過ごした日々と、その子に対する膨大な気持ちをなるべく全部つめて、「タイムカプセル」という曲を書いた。

挙式で彼女のウェディングドレスを着た姿を見て、私は誰よりも大泣きして、マスクが使い物にならなくなった。列の真ん中を歩いていく彼女と、優しい人だと一目で分かる新郎は、私を見て笑った。それを見てまた泣いた。ヒックヒックと泣いた。
披露宴で歌った「タイムカプセル」は、めちゃくちゃだった。ほとんど泣き声になってしまって、泣きながら「これはまずい」と思ったけれど、ふと横にいる彼女を見たら、涙を流していた。
それは、すごく綺麗な涙だった。
その瞬間、泣いてもいいやと思った。最後まで泣き通しで、歌い終えた。

鬱々とした灰色な日常は、中学時代の親友に吹き飛ばしてもらった。カーテンから差し込む太陽光が、少しだけ疎ましくなくなった。
感動の再会というのはだいぶ嫌いな言葉だけれど、まあ、感動の再会としか言えない再会だった。
私もいつか誰かと再会して、それが「感動の再会」だと思ってもらえれば良いなと思う。
人生の目標が、ひとつ増えた日だった。