コロナが後押しになったのか、丁寧な暮らしがちょっとしたブームになりました。本屋に行くと、そんなような雑誌もよく見かけます。
倹約家の家庭で育った私には馴染みのあるものも多く、まぁ私の家はこんなおしゃれではないなと思いながら、パラパラそういう雑誌を眺めたりしていました。
すると何か謎の違和感を覚え、ちょっと息が詰まりました。しかし、「我が家の目的は節約であって、おしゃれではないからなぁ」と、それもそのまま流していました。

味噌を作り、制汗剤も作り、庭でなった果実でジャムを作って、土鍋でご飯を炊いて、鉄のフライパンを四半世紀も使って、びわこふきんで食器を洗って、箒とちりとり(掃除機もある)で掃除をして、汚れた布製品は染め直して使って、よれた服のボタンやチャックは外して再利用、残りの布はボロ布にして、お正月にはおせちを作って、籐で編んだカゴに囲まれる生活は、それ自体はまぁ丁寧な暮らしに当てはまるかもしれません。

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こんな生活、嫌だなぁと思ったこともありました。
社会人の頃はある程度お金の自由がきいたこともあり、というか、苦労してお金を稼いだのにまた苦労することが貧乏くさいとか、しみったれているような気がして、母のような生活が嫌でした。
しかし仕事をやめたら、節約するしかありません。アルバイトで稼げるお金は正社員の頃に比べたら少なく、そのアルバイトを始めるまでの間は収入も途絶え、実家暮らしで家賃は2万円と少なかったものの、切り詰めて生活をすることになりました。
生活レベルを下げるのは大変難しいという話を聞いたことがありますが、本当にその通りで、ここまでしなければ、母から教わってこんなこともしなかったでしょう。
先にあげたものの全てが代々行なっていたことというわけではありませんが、ほとんどは母から教わったことです。母は祖母から教わったり、なんとしてもこれを使おうとして調べたりして、家にある物の活かし方を探りました。今あるものを捨てずになんとか使い続けるための努力をしたのです。

今よく言われる丁寧な暮らしは、お金持ちが娯楽的に行なっているから違和感があったのだと気がつきました。雑誌に出ている人たち自身がどうかは知りませんが、ターゲットは時間的余裕のある裕福な人たちだから、あるもので暮らす質素な生活を目指す私に向けたものではなかったのです。だから何か私たち家族の暮らしとは違うなと思ったのでしょう。そもそもあの頃の私には、お金を払って雑誌を買う余裕もありませんでした。そういう人を、雑誌は見ていません。

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土鍋は高価ですが、2万円もあれば五合炊き用も買えます。土鍋の寿命は大体10年と言われているので、天寿をまっとうできるなら、高い買い物ではないと思います。
ただ、そのためにはいろいろと気を使ってあげなければなりません。
土鍋はひびが入るものですから、使い始めと不調時には目止めという処理をして、水が漏れないようにします。漏れても自分たちで目止めをして直して使うのです。水に浸けっぱなしにしておかないとか、底に水が付いたまま加熱してはいけないとか、いろんな厄介ごともあり、そこに気を使って大事にして10年もたせるものなのです。
その分ご飯は最高においしいです。他の鍋もいろいろ試しましたが、我が家では満場一致で土鍋が一番でした。

炊飯能力は優れている一方、何かと使う上で面倒ごとは多いでしょう。ただ流行っているからと購入したら後悔するような代物なのに、簡単においしいご飯が炊けることだけが強調され、このような使い方のルールについては調べなければ出てこないのは、なんだかおかしいなと思ってしまいます。
しかしそういうクレームは雑誌ではなく、土鍋屋や配達業者に行くからいいんでしょう。ネット通販サイトのレビューには「届いた土鍋が割れていた」と書かれたものが何件かありましたが、目止めをしなかったための水漏れではないかと私はみています。もし目止めをしてないことが原因で、その人が何としても土鍋を使ってやろうとして調べることをしなければ、レビューにあったその土鍋はまだ使えるのに捨てられてしまうのでしょう。
可哀想ですが、どうしようもありません。

土鍋などの道具は、壊れたら捨てる感覚では使い続けられません。壊れても直すことを前提にしていなければ、お付き合いできないのです。それは大変手間のかかることかもしれませんが、こういうケアをすることで、使い捨てにはない高い能力を発揮できるものなのです。
そういうところがどこか人間らしくていいなと思っています。道具のケアをすることは、自分のケアをすることにつながっている気もします。しかし、プラ製品を扱う感覚のままこのような道具を持つ人も多いようで、少し寂しくなります。

私は木をカビさせるのが得意なので、お櫃は購入できていないのですが、ご飯をおいしく食べたかったらまずお櫃を使うといいと聞きました。こちらもまたいろいろと使い方のルールはありますから、こういうものを試してみたいと思う方は、まずはよく調べてデメリットも知った上で、自分に合ったものから試すのが良いと思います。デメリットがなければ、炊飯器などのプラスチックにとって代わられるはずがありませんから。

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こういう生活は、言ってみれば生活自体が趣味です。生活そのものが楽しいので、他の欲は薄れがちです。自分を大切にしているから、物で自分を慰めてあげなくてもいいのです。
そのせいか、食料品と最低限の衣服以外に買うものはほとんどありません。振込の支払いも、たまにネットで購入する本の代金の支払いがあるくらいで、随分すっきりしています。

対人関係も落ち着いたからか、とりあえずきれいなだけで使い道がないものを、欲しいとも思わなくなりました。そんなのは拾ってきたらいいのです。
それよりやりたいことがあるから、買い物より読書などに時間を使いたいのです。そうしていろんなことを知り、楽しいなと思っているうちに、貯金は毎月増えていくようになりました。

丁寧な暮らしという言葉自体が、何か間違っている気がします。物を大切にする暮らしの方が私にはしっくりきます。物を大事にして、自分を大事にする暮らし。
決して雑誌にあるようなかっこいい暮らしではないけれど、落ち着いた暮らしが私はとても好きです。