「面談どうだったー?」
「うん。めっちゃ褒められた」

嘘だ。
私はこの時、みんなに嘘をついた。
当時の私は、究極のダメ出しをくらった後だったのに。

◎          ◎

私は医療系の大学に通っており、最近まで病院実習に追われていた身である。
今回が学生最後の実習で、長かった病院実習も先日、終わりを迎えた。
とてつもない解放感を身に纏った私は、実習最終日に大学を訪れた。
というのも、実習最終日は担当の教員と面談をするのが決まりで、実習を振り返ってみてどうだったか、教員とリフレクションしなくてはならないのである。
私の足取りは軽かった。この後、大きな傷を負うことになるとも知らずに。

私は、中学・高校では割と目立つ人間だったと思う。
6年間は部活人間で、ジャンルが違うスポーツだったけど中高どちらも部長を任されていたし、学級委員や行事の委員を任されることも多かった。
友達も多かったし、私の学生生活はとても充実していた。
こうして多くの人と関わることや人前に立って話す機会が増える度に、私のコミュニケーション能力は向上していった。同時に、どこか表面的に良い顔をするのも得意になっていった。
それでも、皆はこんな私を慕ってくれていた。
何も問題はないと思っていたし、人当たりがいいところは自分の長所であると自負していた。

このようにして私の人間性は作り上げられ、大学生になった。
性格は相変わらずで、持ち前の性格でサークルの先輩には可愛がってもらい、アルバイト先や大学でも信頼できる友達が多く出来た。
ただ、医療系の大学に進んだため、苦戦することもあった。
私は論理的に物事を考えることが苦手で、どちらかというと直観的なタイプだったため、根拠を持ってなにかを判断することは私の苦手分野だったからである。
とはいえ、実習や勉強がどんなに忙しくなってもこれまで築きあげた根性と忍耐で耐えしのぎ、気づいたときには最高学年を迎えていた。

◎          ◎

そして、最後の実習を迎えた。
私はこの実習に大学の中でも権力があり、現役時代もかなり活躍していた教員と行くことになった。
名前はA先生。
私は少し威圧的なA先生が怖かったし苦手だったので、グループが発表された時には絶望と虚無感に苛まれた。しかし、ここまで乗り越えることが出来た自分を信じ、A先生と行ける事にも何か意味があるだろうと言い聞かせた。
先生とは面談を重ねることで、実習直前までにはある程度関係を築くことが出来たと私は感じていた。
いざ、始まった実習にも必死に食らいついた。
その結果、あの厳しいA先生に「さすが最高学年だね」と称賛され、病院実習は幕を閉じた。
とても長く感じたが、頑張れてよかったとメンバーで互いを称えあった。
本当によく頑張ったと思う。

そして、話は冒頭に戻る。病院実習終了後、先生と最後の面談をするために大学に来た。
私はこれまでの面談で褒められたことしかなかったので特に身を構えずに、先生の研究室のドアを開いた。
途中までは順調であった。私は自分が実習で感じたことを赤裸々に話した。
もう面談も終盤に差し掛かる、その時だ。

◎          ◎

「あなたの良いところは、人とうまくコミュニケーションを取れるところだと思う」
先生がそう言った。私もそう思っていたし、それに関しては何よりも自信があった。
「ただ、言葉にロジックがないのよ。裏付けね」
おや?と思った時には先生の言葉は止まらなくなっていた。
「あなたは物事を簡単に捉えすぎている。表面的に並べられた言葉よりも多少上手く言葉を伝えられなくてもしっかり考えている人の方が、ちゃんと判断したんだなと思うわ」

「このままだと、ただの気前のいいお姉さんになるわよ。歳を取っていくと余計に」
バレた、と思った。
そう、自分でもわかっていた。
私はただの世渡り上手だった。
だけどこれが私のやり方だから、これが本当の私でもあるから、どうしようもなかった。
研究室を出る時には心がボロボロで、両足には大きな錘をぶらさげているみたいだった。

なぜこのタイミングで?
今までの私の生き方を否定するわけ?
私の何を知っているんだ?

上手くやれたと思ったのに。
色んな感情を抱え、グループのメンバーの元へ戻ると笑顔のみんなが私に「どうだった?」と声を投げかけた。
私はいつものように笑顔で答えた。
「うん。めっちゃ褒められた」
この言葉がさらに私の足を重たくした。
この面談の内容は、きっと誰にも言えない隠しごとになるだろう。