「今時の20代って若いんだね」
褒め言葉じゃないことは雰囲気でわかった。
親戚のお兄さんに、ぽつりと言われたのだ。私が友人と話している様子を見ての言葉だ。
友人はいろいろと私に対し、質素な生活に対する嫌味を投げてきたので、そのことかと思ったが、私に対しての言葉でもあるように感じた。

思えば、なんとなく生きづらいのは、今に始まったことじゃない。
質素な生活が好きでしているけれど、同年代の友人に受け入れられることは少なく、「古っぽい」「お金ないんだね」「つらくないの?」とか言われていた。「まぁまぁ楽しいよー」くらいの返事をしていたら、何か皆急に怒り出すようになった。全員ではないけれど、否定したい人も多いんだと感じた。

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そんなある日、アルバイト先の新人さんに対し、苦手意識があると歳上の人に話した。話して初めて、私はその人のことを上手く流せていなかったんだと気がついた。
私もその新人さんと会話もしていたし、まぁ学生さんだから仕方ないよねと思っていたけれど、それでもその人ほどきれいに片付けられていなかったのだ。そして先輩たちは皆、さっぱりと割り切っているらしい。改めて自分の未熟さを感じた。

「どうしたら上手く流せますか?」と聞くと、「いやぁ、まぁ……そんな人のことは考えても無駄だからね」というような答えが返ってきた。
その人が言うには、相手がどうにか変わりたがっているならともかく、そうでもない。その新人さんはこちらのことを何も見ていない。こちらが悩んでも考えても、あちらは何も変わらない。それはこっちが悩むだけ無駄だから、何も考える必要がないということだそうだ。
やっといろいろ腑に落ちた。私は、こういうさっぱりした関係を望んでいたんだ。

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挫折して、一からやり直そうと決めた時から、もういろんなことへの執着は無くなっていた。周りの目など何も気にならなくなって、SNSもほとんどやめた。
20代前半で随分老け込んだなと思ったけど、それはたくさんの経験をさせてもらったからだろう。これからはその恩を次に送る番だ。
身なりも清潔以上のものは求めず、ものも少なくすませるようになり、彼氏の言うことをはいはいと聞いて、なんでもするようになった。
彼は私を傷つけるようなことはしないし、私と同じ目標を持っているから、彼の言うことを鵜呑みにしても問題はないのだ。つらかったらちゃんとつらいと言うし、なんでも言いなりではないつもりだけど、彼の言うことはどれもすぐ納得できたので、なんでも聞いていた。
彼氏が言ったからそうしたとは言わなかったけど、人生これからだという人たちからしたら、夢も何も追いかけず、ゆっくり生きる私はおかしかったんだろう。何かと反対する人もいた。

取り合うだけ無駄だと聞き流していたが、ある日気持ちが折れてしまった。友達だと思っていた人たちから、散々「正しくない」と言われてしまったからだ。そのあまりの多さに、私はすっかり疲れてしまい、味方などいないように錯覚することもあった。
それから、周りの目を必要以上に気にするようになった。周りと同じでなければならないような気がした。それは私には苦痛で、耐え難かった。そんなことはする必要はなかったのだと気がついた。
しかし、そういう考えを、あまりおおっぴらに出すと叩かれる世の中のようだ。皆は構われないと生きていられないらしい。どうしてそのままの自分を認めてあげられないの?

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こういう人に対しては、何も考えない。とりあえず「すごいねー」とか言って、そっと距離を置く。相手にはわからないように、こっそりだ。
過去の自分はそれができていた。そんな過去の自分を、冷たい人間だと思っていたが、そんなことはなかったのだ。そんなことをすると、同年代のほとんどとは合わなくなるんだけど、それでいいんだって後押ししてもらえた気がした。

先輩たちが新人さんのことをどう思っているかも、私は全然わかっていなかった。私に対しても、黙っていてくれていることがたくさんあるんだろう。きらいじゃないのは知ってるけれど、それ以上のことって、何もわからないのだ。それが怖いことではなく、これこそが多様性なんじゃないかと思えるようになって、初めて人間の深みのようなものに触れられた気がした。
冒頭の言葉は、こんなことを言われても尚その友人を正しいと思い込み、友人で居続けようとした私に対しての忠告だった。
彼女は、働く女性像としては正しいし、インスタグラムなども活発らしい。世間が良しというものについては完璧なのだ。しかしその世間が間違っているかもしれないという疑問を持ってみたらどうだろう?

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私の考えていた世間は、小さかった。2019年のMeta社の発表によると、インスタグラムは幅広い世代が使用しているとのことだが、年代別のインスタグラムの利用率は、一番多い15〜19歳で65.0%、20代で57.3%、だんだん利用率は低くなり、50代では29.4%である。
その上、登録しているからって全員が投稿するわけではないだろうし、投稿が多い人は決まっているだろう。全人口の割合で言ったらどのくらいになるかわからない。その中でも、全員が流行りのものや新しいものをどんどん買い集めて載せる人ではない。
でもそれは世間一般的に良いとされていると思っていたが、本当にそう思っている人は、いったいどれだけいるんだろう。
皆こう思っている、と思い込んでいたから、間違っているのは私だけのような気がしていたのだ。私が悪いと思ってきた。

でも一人だけ「くじらちゃん、彼氏が出来て明るくなったね」と言ってくれた友人がいたし、親友には「しっかりしろ」とか、「くじらちゃんを悪く言う人なんているの?」と言われた。広い目で見れば、間違っているのも、少数なのも彼女らだったのに、私は何も見えていなかった。
何故私は、思考を停止していたんだろう。
思い込みで世界を作り上げていたんだろう。
感覚を無視し、一度も考えることなく、それが大多数の意見だと思い込んで受け止めていた。それは自分の周りの、声の大きな人だけの話だったのに。
自分の目で見て、考えよう。それが生きるということだと思う。