「かおりんは、どんな人がタイプですか」
ある人と毎日LINEをするような関係になってから、2回目のデートのことだった。

美味しいご飯、スイーツを紹介しているインスタグラムのアカウントを偶然にもお互いフォローしていて、そこで紹介されていたチーズ料理の専門店に行くことになった。
予約をとってくれた彼と恵比寿駅で待ち合わせて、その日は1〜2週間分のチーズ料理を食べた。
お酒は強い方だけれど、普段お酒を飲まない私。
いつもより少しだけ飲み過ぎてしまって、酔い覚ましに、恵比寿から渋谷駅まで歩いて帰ることにした。

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夜風に当たりながら、線路沿いの暗い夜道を2人で歩く。
たわいもない話をしながら、あっという間にJR渋谷駅の新南口改札に到着してしまった。
「じゃあ、ここから電車乗って帰ろうよ」と言う私に、「もう少しだけ話したい」と言う彼。さらにJR原宿駅まで夜のお散歩をすることにした。
彼には、私に聞きたかった質問があったから。
それが、例の「好きなタイプ」の質問だ。

私は思わず、「あっ、それは答えるのが難しいなぁ」と返事をしてしまった。
好きな人のタイプを事細かに描写できる人なんて、そもそもいるのだろうか。
「優しくて面白くて、笑顔が素敵な人」なんて、ありきたり過ぎる。
かといって、相手に求める外見について正直に「身長はせめて私よりは高くて、一重の目ではない人」と言ってしまうのも、少し違う気がする。
いっそ、好きになった人がタイプなのではないか。
「タイプ」というカテゴライズされた概念に、人間を当てはめて、ぴったり合致すると「好き」になるというよりも、「なぜだかわからないけど好きになった」人間を分析して、「タイプ」という概念で説明をすることの方が現実的な気がする。

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少しだけ考えて、私はその質問に、
「時間の使い方と時間の価値観が同じ人がいい」
と答えた。
相手に会いたい。会いたくないわけじゃない。
だけれど、この週末はひとりの時間を過ごしたい、のんびりお休みしたいという時もある。そんなときに「えっ、先週末も会っていないのに。そうしたら次に会うのは3週間後じゃん」と言わないような人がタイプだ。
私は、お互いの身体と心の健康を大切にしたいから。
スマホ1台でいつでも連絡ができるこの時代で、毎週末、顔をあわせないと、相手が浮気していないか心配になってしまう関係性はまだ信頼関係が築けていない、未熟な関係性であることの証拠だと思う。
毎週末、顔をあわせないと「大切にされているのかなぁ」と思ってしまうことも同様だ。
3年間も遠距離恋愛をした経験があるからこそ、面と向かって会うことがなくても、本当の愛情は続くと知っている。
「あと、二股をかけない人」
「好きなタイプは?」という質問への答えとしては適切ではないかもしれないけど、これも付け足しておいた。
二股をかけられたことで、人の心と人の好意を弄んではいけないと身をもって知ったから。

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その質問をしてくれた人は、いつの間にか少しずつ大切な存在になった。
付き合っているのかと聞かれてしまうと答え方が難しい。
「彼氏」や「恋人」といった既存の概念に当てはめるのは少し違う気がするし、「セフレ」といった、道から外れたような関係でもない。
「あっこの人と付き合ったら面白そう」という浅はかな気持ちで相手を落とそうともしていないし、「私に惚れさせたい」と色仕掛けをしているわけでもない。
男を弄ぶことを卒業してから、純粋で綺麗な関係性を新たに始めたのは初めてだった。
ただお互いを支え合い、毎日「おやすみ、良い夢を見てね」とメッセージを送り合うような関係だ。

必要以上に仕事の話はしない。
なぜなら、お互い業界が違うからこそ、仕事の愚痴を言い始めようとすると、まず話を理解してもらうための前提条件として、その仕事自体を説明しなければならないから。
ただ愚痴を聞いてほしいだけなのに、色々と説明するのは疲れてしまうし、お互い業界が違うからこそ、尊敬しあえる。
だから、「今日は遅くなっちゃった」「頑張ったね、お疲れ様だね、身体気を付けるんだよ」くらいのやりとりがちょうどいい。
週末の予定を共有しあう取り決めはもちろんないけれど、なぜかふとした瞬間に、「今日は○○に遊びに来てる」と写真と共に送りあう習慣もできた。
彼は今度、職場の同僚の結婚式で出し物をしなければならないらしく、それも一緒に考えた。

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共通の趣味がカメラとドライブ。
「今日は月が綺麗だよ」と、クレーターまで見える綺麗な月の写真を送ってくれる彼という存在が、私の日常に追加されてから、私は空を見ることが以前よりも好きになった。
都会のど真ん中であっても月や星が見える日は、あの人もきっと同じように空を見上げていると思うと、ふと心が穏やかになる。