「誰にも言えない恋」
そう言われて思い出すのは、中学2年生のときの出来事だ。
「好きな人っているの?」
そう友達に問われ、「うーん、まだ興味ないかな」と答えた私はしかし、その時恋をしていた。
小学校からの同級生に対する一方的な片想い。
告白する勇気などなく、また、一部の友人を除いて学年のほとんどの人達に陰で馬鹿にされていることを知っていた私は、この想いをひた隠しにしていた。
伝えたら彼に迷惑がかかると思っていたから。
クラスも離れているし、今年も来年も関わることはない。伝えないまま卒業を迎え、この想いを抱えたまま高校で離れ離れになるのだろう、とそう思っていた。
憧れていた彼からの告白。自分の恋心を馬鹿にされ、弄ばれた哀しみ
そんなある日のことだ。
休み時間、おもむろに教室へ入りこちらに近づいてくる彼。
何か用事でもあっただろうか?
そう思った数秒後、
「好きです。俺と付き合ってください」
そう言って私へ手を差し出し、頭を下げる彼。
驚きで一瞬固まった私はしかし、どうにか震える唇を動かして答えた。
「ごめんなさい、付き合えません」
なぜそう答えたのか。理由は簡単だ。
彼の後方に隠れているつもりなのか、忍び笑いを隠そうともしない他の人達がいるのを目の当たりにしたからだ。
「ああ、私は今、自分の恋心を馬鹿にされ弄ぶ対象にされている」
そう思った私に湧いてきた感情は怒りより、哀しみのほうが大きかった。
憧れていた彼。恋をしていた彼。
しかしその人はその瞬間に、私にとって無価値などうでもいい存在になり、私の気持ちを弄ぶ敵になった。
その事実が、哀しかった。
「タイプじゃないから」と言い放った。甘酸っぱい恋心をそっと捨てた
私がはっきりとお断りの返事をした次の瞬間、彼とその後方から爆笑の渦が起こり、「なんで断ったの?」「お前レベルで告られて拒否る権利あると思ってんの?」と小馬鹿にするセリフや質問を投げかけられたが、それらには微塵も心が動かなかった。
ただただ、彼が私の中で無価値な存在になったこと、敵と認識するようにならざるを得なかったことが哀しかった。
そんな悲しみを押し殺し、私はにっこり笑って「あなたみたいな人、タイプじゃないから」と言い放ってみせた。
それが私にできる精一杯の強がりだった。
「嘘。本当はタイプどころか恋心でいっぱいだったの。でもあなたが恋という感情を馬鹿にして、からかいの対象にしたその瞬間にこの恋は終わりを告げたの。今のあなたは侮蔑の対象でしかないし、二度と関わりたくないわ」
本当はそう告げてやりたかった。
それをしなかったのは、普段から馬鹿にされ、からかいの対象になっている私がそんなことを告げてもますます馬鹿にされるだけだと思ったから。
そして、ほんの僅かに残った彼への情がその言葉を放たせるのを躊躇わせた。
本当はそんな情捨ててしまって、バッサリと斬ってしまえればよかったのだけれど。
だからせめて精一杯の強がりの笑顔を浮かべた。
「タイプじゃないの」
その一言で苦くなってしまった、かつて甘酸っぱかった恋心をそっと捨てた。
あの苦い想いは今でも忘れられない。でも、今の私は多分幸せです
そんな出来事のあと数人と付き合ったけど、あのときの苦い想いは今でも忘れられない。
かつて、私の恋心を弄んだ彼へ。
私があなたのことを好きだったことは知る由もなかったでしょうけど、あんな形で女の子を揶揄って楽しかったですか?きっと当時のあなたは楽しかったのでしょうね。そのことを少しでも後悔していますか?それとも綺麗さっぱり忘れてしまっていますか?
あなたの仕掛けた告白ゲームという名の悪戯はあまりに紳士的ではなかったけれど、あなたのことを諦めるいいきっかけになりました。
このエッセイを読んでくれている男の子へ。
もしかしたら、告白ゲームというのは今でも定番の遊びなのかもしれません。けれど、その貴方達にとっては何気ない遊びでも、間違いなく傷つく女の子が少なからずいることを忘れないでくださいね。
かつて恋をしていた私へ。
今の私は多分幸せです。恋とは少し縁遠いけど、毎日穏やかな日々を過ごせています。あなたのつけられた傷は今も古傷としてたまに痛むけれど。それも無駄ではなかったと思える日がきっと来ると信じています。
今こうして語れるようになっただけでも傷は癒えてきていると思うから。