私は自己肯定感が恐ろしく低い。特に恋愛面に関してはポンコツといってもいい。
過去の私は恋多き女であったが、実らないことばかりだった。
私の不毛な恋に終止符を打ったのは、夫との出会いだった。

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恋をすると私は猪突猛進になる。とにかく相手に振り向いてもらいたくて、ひたすらアタックする。絶対に告白までするのだ。
でも、それでおしまい。告白した後はスッキリして、何も望まない。というかフラれると安心するのである。自分に自信がなさすぎて、相手にフラれると「やっぱり私ってダメなんだ。また頑張ろ」と、落ち込む以上に変に前向きになる。

自分でも意味がわからないけれど、気持ちを伝えて終わりにしたいのだ。その先がどうしても考えられない。このまま、ひとりで過ごすほうが楽なんじゃないか。そんな風にすら思えてくる。恋愛よりも、夢に向かって行動するほうが何倍も楽しい。
そんな感じなので、運良く付き合えてしまっても長続きしない。恋人と過ごすより、自分の趣味や仕事に全力投球したい。その思いが強くて、すぐに別れを告げてしまう。

でもすぐまた別の誰かに恋に落ちる。告白する。フラれる。自分がダメなことを再確認して安心する。このサイクルを崩せない。
これはこれで良いんじゃないか(恋された相手はたまったものではないが)と思った矢先、夫と出会った。というか、再会を果たしたのだった。

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夫とは中学の同級生だ。当時から、割と仲が良いほうだった気がする。だからといって、そこから何か関係が発展するわけでもなかった。結局、卒業してから一度も会うことはなかった。

夫との再会は、大学に入って二年過ぎた夏頃だった。中学の頃から仲の良かった子から、久しぶりに中学のメンバーで集まろうとメールが来たのだ。その当時、私は失恋したばかりで落ち込んでいた。気晴らしにちょうど良いと思い、遊びに出かけることとなった。
久しぶりに会った夫は、中学生の頃よりずいぶん背が高かった。中学時代と変わらず陽気なままで、五年ぶりという時間を感じさせなかった。
皆でカラオケをして、ごはんを食べていると、すっかり遅くなってしまった。友人たちと解散した帰り道、自然と私と夫は二人きりになった。「送ってくよ」と夫は言った。

なんとなくまだ帰りたくなくて、遠回りをして帰った。他愛もない話をしていると、あっという間に家に着いてしまった。けれども、帰りたくなかったのか、お互いに話し続けてしまった。
心配した母が外に出て来なかったら、ずっと話していたと思う。気がつけば真夜中だった。流石に帰ろうという話になり、「またね」と言おうと口を開いたはずだった。
「好きみたい」
私の口はそう言っていた。どうした私。夫の顔を見ずに、「じゃあ」と言って家に逃げるように入った。なんで好きって言ったん?

「好き」と言ってみたものの、私は本当に夫のことが好きなのか?
確かに夫といると、背伸びをせずにありのままの自分で話せている。飾らなくていい。
今までの恋は、相手によく思われたくて合わせようと必死だった。映画や本も、相手が好きなジャンルを学んでいった。少しでも接点が欲しい。その一心で。
だけれど、夫は違う。好きなものや趣味もまるで違う。違うけれど、ずっと他愛のないことを話し、笑っていられる。こんな恋はありなのか?

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謎の告白めいた出来事から数日後、夫から連絡があった。夜、家の前に現れた夫と変わらず、他愛もない話をしていた。ふと、夫が「ほんまは自分から言いたかった」と言った。
「え?」
「自分から告白したかった、付き合ってください」
ドラマや少女漫画でしか見たことのない展開だ。そうして、私たちは付き合うことになった。でも、この関係が崩れたらどうしよう……。

しかし、その不安は杞憂だった。夫と付き合ったからといって、私の中で何かが変わることはなかった。むしろ、生活の一部として馴染んでいた。
好きになったからといって、無理に自分を飾らなくていい。夫も私に“彼女”としての役割を求めていなかった。ただ、自分らしくいればいい。そんな当たり前の関係でいられることがこんなにも幸せだとは。今まで想像できなかった付き合ったその先を、初めて想像することが出来た。
恋とは、成長するためのものだと思っていた。でも、夫との出会いは自分らしくいても良いんだと自信が持てた。お互いに無理をしない関係が良い。その先の延長線上に、結婚や将来をともにしようと思えるのかもしれない。
これからも、ありのままで感じられる幸せを享受したい。