たしかに、生理前で気が立っていた。
たしかに、言葉にし始めたら拍車がかかって、当初の内容からズレ始めていた。
たしかに、彼は仕事帰りで疲れている一方で、わたしは一日中休みで体力に差があった。
だけどわたしは、あくまで2人の今後のために彼に直してほしいところを直談判している最中だった。本気で。

◎          ◎

彼はわたしが「たしかに」と少なからず納得してしまいそうなそれっぽいことを言った後、「いま何を言われてもまともに話し合えない」と風呂場に向かった。
自分が話し合いたくないだけじゃん。
でも彼の言う通り、「謝られたってむしゃくしゃするし、解決策を提示されても未来の話にすり替えないでよ!ってイライラしちゃう」。
着地点をどうするのかだなんて正直わからない。

たとえば、生乾きのタオルから放たれる雑巾を薄めたような匂いのように、無視できなくはないけれど明らかに「豊かさ」とは真逆な微毒ってこの世の中に散乱してるでしょう?
このわたしの噴火だって、そういう彼発信の微毒をやり過ごしてきてとうとうやってきたわけだから、具体的に「これが原因」なんてものはない。
それどころか「わたしを大切にしてよ!愛されてるって感じさせて!」っていうわたしのワガママなのかもしれない。

◎          ◎

交際7年。同級生の結婚している夫婦たちよりも一緒にいる時間は長い。婚姻こそしてないけど、酸いも甘いも経験してきた。
いまさらケンカするのに明確な理由なんてない。
大体のパターンで、お互いがお互いに甘え過ぎてしまって度を越してしまうと、どちらかが爆発する。
たぶん今回も同じ。

そして毎回、どちらかが噴火すればもう一方も溜めてた分を爆発させる。
不器用なわたしたちなりの不健康な浄化作用なんだと思う。

彼がお風呂から上がり、わたしが風呂場へ向かう。
泣きこそしないけど、モヤモヤもイライラも解消されないし、湯船に浸かりながらスマホを水没させないように慎重にとりあえずインスタのストーリーを無表情で眺め、日常に戻るためのインターバルをとる。

いつもこの後、なんとなくお互い冷静になって、必要があれば結論を出すために話し合って、なんとなく同じ布団で寝て、次の日には何事もなかったかのように日常が再開される。
だけど、わかんないけど、なんか、どうしても今日は満たされそうにない。

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ふだんはもう少し聞き分けのいい、良い彼女をやってる。
高価なプレゼントをねだったこともないし、デートは割り勘でなんの文句もない。最近はダイエットをがんばってるし、彼の仕事を心から応援してる。義両親とも仲良くやってるし、自分の両親にも彼が好印象に映るよう上手く話している。
いつか結婚もするだろうし、子どもの話しだって何度もしてる。

婚活だ、適齢期だ、不妊だと悩みを抱えている同世代からすれば生やさしい立場かもしれない。
だけど、そういう「冷静なわたし」でいたくない日もある。
イヤイヤ期の幼児のように何を言われても満足できない日は突然やってくる。
それはもしかしたら生理のせいかもしれないし、やることのない休日を過ごしたせいで色んなことを考え過ぎてしまったせいかもしれない。はたまた本当にランダムなのかもしれない。

◎          ◎

今日のわたしは、彼にこの破綻した直談判を聞いてほしいし、できることなら黙って抱きしめてほしい。
「聞き分けのいい彼女」をお休みする日があっても許してほしい。
「冷静なわたし」をお休みする日も、わたしは彼に愛されたい。
「生理前だからでしょ?」なんて何もかもをホルモンバランスのせいにされたくない。
どんな瞬間もわたしはわたしだから。