今年の夏は忙しかった。
大学生の夏休みは約2ヶ月。私も例に漏れず7月下旬から9月下旬まで授業のない日を過ごした。平日は大学近くの児童館で、土日は家の近くのパン屋さんでアルバイトをした。大学で化合物を合成する研究をしたり、オープンキャンパスの学生サポーターをしたりした。時間が空いたら映画を観たし、友達との旅行は2回行った。車の運転を練習した日や、献血にチャレンジした日もあった。

とても充実した日々ではあったが、あまりに動き続ける毎日のせいで、私の何かがすり減っていくようでもあった。それでも私を保っていられたのは、夏休みの間に4度あったライブのおかげだろう。

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最初に行ったのは、女性お笑いコンビの単独ライブだった。彼女たちのネタは老若男女問わず共感できて笑える。元看護師であるキャリアを活かして、看護師あるあるをYouTubeに投稿していたり、2人が自由気ままにお喋りする様子をラジオアプリに投稿していたりと、ネタ以外にも力を入れている。この2つのコンテンツを毎日更新している努力家な一面も魅力のひとつだ。

彼女たちの主催ライブに行くのはこれで3回目。生で見るのが何度目であっても、始まる前は何故かこちらが緊張してしまう。無意識に前髪や襟元を整え、興奮をLINEで家族に伝える。

舞台の照明が点いて2人が出てきたら、何も考えずに前を見るだけで笑っている自分がいる。漫才3本とコント3本、さらにゲストの漫才が2本、最後にはコーナーと盛りだくさん。隣に座った知らない誰かと、笑うタイミングが重なったときは「ツボが一緒や!」と嬉しくなった。

この日の公演は配信チケットも購入して、家でも2週間堪能した。配信が終了する間際では、セリフのほとんどを覚えていたほど見入っていた。
彼女たちから笑顔をチャージした。

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次に行ったのは、女性シンガーソングライターのライブだ。
彼女のことは、同郷であることから興味を持ち、曲を聴くようになった。どこか懐かしさを感じるメロディーに、ありきたりな言葉でも説得力を感じる歌詞が乗る。彼女にしか出せない独特の世界観に魅了された。

会場に入ると、ちょっぴり残念。私の座席はアリーナの1番後ろのブロックで、前の人の頭しか見えない場所だった。それでもライブが始まれば、かっこよさと美しさを兼ね備えた歌声が私を包み込んだ。姿がはっきり見えなくても、手拍子をしたり飛び跳ねたり、涙を流して聴き入ったり、マスクの中で口ずさんだりして私なりに楽しんだ。

彼女のライブの1番の特徴は、曲と曲の間に話をする「MC」の部分だろう。後ろのほうにいるお客さんに話しかけて笑いを誘い、バンドメンバーをいじって和ませる。自虐からセルフツッコミをしたかと思えば、リフトになっているステージに立って2階席のお客さんとエアハイタッチ。

持ち前の明るさと自然体の振る舞いに加え、心地よい関西弁を話す姿は、地元の友達と喋っているような安心感を与えてくれた。

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3つ目は4人組バンドのライブ。
彼らのライブには中学生の頃から何度も行っている。ポップで親しみやすい曲や、命や正義について考えさせられる曲、いつ聴いても元気になれる応援ソング、ライブで盛り上がるダンスミュージックなど、メンバー3人が作詞作曲することで生まれる幅の広さは、他のバンドには出せない魅力だと感じている。

彼らのライブの特徴は、奇抜なコンセプトを基に作られる豪華なセットだろう。真ん中に大きな樹があって周りには喋る動物たちがいる森を作ったり、宇宙旅行にオーケストラと一緒に連れて行ってくれたりと、会場に入るだけでワクワクする。

今回は、100年後に現代をモチーフにした遊園地があったら……というコンセプトで、ステージ上にはメリーゴーランドや観覧車、ジェットコースターなどが並んでいた。15000個のライトが点いた煌びやかなセットの前で歌を歌い楽器を奏でるスターの姿が、私の眼に映った。ゴンドラに乗ってバンドメンバーが目の前を通った時には、ジャケットの色が変わるほど汗をかいていることが分かり、人間味を感じる瞬間だった。

エンターテインメントを詰め込んだ2時間が、満足感とフワフワするような余韻に包まれて過ぎ去った。

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夏休みの終わりが見えてきた頃、1つ目とは違うお笑いコンビの単独ライブに向かった。このコンビが主催のライブに行くのは初めてで、ファン層や雰囲気が分からない分、少し緊張したまま会場に着いたことを覚えている。もちろん期待や興奮が勝っていたことは当たり前だが。

ライブが始まると、コントや漫才、さらに舞台転換の間の音楽や映像にも楽しませてもらった。ボケとツッコミがネタごとに自然と入れ替わることに驚きつつ、ネタが終わるたびにお気に入りのフレーズを口の中で転がしてみる。粋で不思議な言葉が並ぶオープニング曲と小気味よいメロディーが印象的なエンディング曲には、彼女らの歌声だったからか、真似して歌いたくなる可愛さがあった。

このライブも配信チケットを購入して、セリフや歌を覚えるために観ているのではと思うほど毎日観ていた。その甲斐あって、未だにエンディング曲の歌詞は完璧に覚えている自信がある。いつまでも楽しめるお土産を貰った気分だ。

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今までライブは娯楽のためだけにあると思っていた。心に余裕のある人が行くレジャー施設のような場所だと。でもこの夏に行ったライブは、心が乾いていたり疲れていたりしても歓迎してくれた。私にとってはエネルギー補給の場であり、癒しであり、日々の活力にもなる。

夏休みが明けて、授業と課題とアルバイトに挟まれる日常が再開した。忙しなく動いていても、私には休める場所が確かにある。年内だけでも4つのライブに行くことが決まっている。
心許ない貯金額が書かれた通帳を睨み、めいっぱい休むために今は働こうと少し鼓舞して、今日もせっせとアルバイトに向かう。