「だからダメなんだよ!」とルミネtheよしもとの大舞台で叫んだことは、間違いなく走馬灯に出てくる人生のハイライトのひとつだ。

「抱けそう」といじるMCに、笑う客席。この一連の流れが許せなかった

私は大学生のときにお笑いサークルに所属していた。今流行りの“学生芸人”である。
学生お笑いの世界は特殊で、尖っているのが面白いとされる風潮があり、倫理的にグレーなことやきつい下ネタなど、そんなことやっちゃうの!?という突拍子もないことをやると一目置かれる節があった。

今でも覚えているのが、とある平場のワンシーン。女の子の演者が話を振られたときに、ふわふわした話し方で受け答えをした。するとMCの芸人が「こいつすぐ抱けそうだな!」と言い放ち、客席にどっと笑いが起きたのだ。
客席で見ていた私はこの一連の流れが許せなかった。いじり方に対しても、客席の反応に対しても。

怒り冷めやらぬ私は、後日、自身のネタの中で「女の判断基準が抱けるか抱けないかの男、いらないな〜」というくだりを増やしたのである。
私がこのネタをやったところで大半のお客さんには伝わらないし、その場面を見ていた人が客席にいたのかさえわからない。ただ、自己満足に過ぎなくとも、私は怒っているという決意表明がしたかった。

この時期から、私はネタを通じて自分の主張を盛り込んでいくようになる。

女性芸人の扱いはあまり対等と言えず、男性芸人との間に溝がある

そもそも学生お笑いの中で、女性芸人の扱いはあまり対等とは言えなかったように思う。
私の大学はジェンダー教育の盛んな学校だったためか、一個人として互いを尊重し合う意識が学生全体にあり、サークル内で性差を意識することはあまりなかった。

しかし学外のライブに出て外部の学生と交流して初めて、女の演者であるということで感じる違和感に出くわした。
男女コンビには付き合っているのかと聞き、女性芸人をセクハラめいた言動でイジる。あえて「女を捨てた」芸風を披露する者もいた。女であるというだけで、女の枠にはめ込まれ、役割を押し付けられるのだ。

もちろん窮屈なことばかりではなく、逆手にとるように女だけで「アマゾネス」というチームを組んだこともあったし、同じようにもやもやを抱える女性芸人同士が仲良くなるガールズエンパワメントのような風潮もあった。
しかし、男性芸人との間に溝はあったと思う。

決勝の舞台で、「だからダメなんだよ!」とMCに向かって叫んだ

私が現役だった頃の学生お笑いでは年に2回大きな大会が催され、「個人戦」「団体戦」があった。個人戦ではコンビごとのエントリーになり、ジャンル問わず個々のコンビが競い合う。団体戦は所属サークルの大学ごとにエントリーし、漫才・ピン・コント3組の総合得点で競い合う。

私は自身にとって最後の団体戦で勝ち抜き、決勝の舞台に進出し、ルミネtheよしもとの舞台に立った。私たちのチームは男性1名、女性4名というメンバー編成で、他大学に比べて女性の割合が多いのが珍しかったようだ。全てのネタを終えて舞台に集まったとき、MCの芸人は私たちの男女の内訳を見て「エロい漫画の設定みたいだな」と言い放った。

前述のように、私は自身の主張を盛り込む比較的思想の強いネタをやっており、当日もそのような皮肉をネタに入れていた。素人とはいえ、ネタを披露する演者に対して微塵のリスペクトもないMCにとても怒りを覚えた。彼らはプロで、テレビでも時折ネタを披露しているような芸人だったため、「プロでもこんな倫理観なのか」と失望した。

とっさになんと返したらよいのかがわからなかったが、笑ってやり過ごすことだけはしたくなかった私は「だからダメなんだよ!」とMCに向かって叫んだ。
客席には笑いが起こり、MCは「何がダメなんだよ」とおどおどしながら返答した。
何がダメかわからないからそのようなイジりしかできないのだ、と心の中で唾を吐きかけながら、客席の観客が、ただ単に大声で怒ったことに笑ったのか、思想の強い演者に火に油のような不用意な発言をして怒られたMCを見て笑ったのかはわからなかった。
しかし、受け流さなかったぞ、ひとこと言ったぞ、という手応えがあった。私史上数少ない、胸を張れる武勇伝だ。

相手に噛みつく凶暴でたくましい私の戦いはまだ終わっていない

私の記憶に残っている様々なモヤっとしたことは、他人の記憶には残ってないだろう。「こいつすぐ抱けそうだな」「エロい漫画みたいだな」と言った彼らはきっと何も覚えていないはずだ。ただ、私の心の中には数年経った今も深く突き刺さっている。

私は社会人になり、お笑いをやめた。時代は進み、ジェンダーに関して取り締まる風潮も強まった。私が研ぎ澄ませていた鋭利なセンサーも、当時とは違った環境に身を置くことで少しずつ鈍ってきてしまった。学生のお笑いは、きっと当時よりも進んだ価値観が備わっているだろう。
それでもまだ、日々の仕事の中で、生活の些細なワンシーンの中で、私の心に一滴のシミを落とすものはある。上司の悪気はないけれど引っかかる発言、「女の子は大変だよね」と気遣うようで一線を引いてくる言い回し、タクシー運転手のタメ口……たとえ自身に向けられたものではなくても、なんだかなと思うことはなくならない。

あのとき舞台の上で大人に向かって怒った、相手に噛みつく凶暴でたくましい私の戦いはまだ終わっていないのだ。
あのときの自分に「だからダメなんだ」と言われないように、私は今日も目を光らせて声を上げていく。