大学3年生の冬、地元から少し離れた地域でアパレルのアルバイトを始めた。まさか憧れのアパレルでアルバイトができるとは思っておらず、かわいいお洋服が大好きな私にとって、合格の電話を頂いたときは嬉しくてたまらなかった。

アパレルでのバイトは、言葉では表せないほど楽しくやりがいを感じていた一方、想像以上に難しく、不器用な私にとって苦労することも多かった。なんとか先輩に教えてもらいながらできるようになっていったが、やはり苦労は多かった。

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そんな日々が続いていたある日、少し早めにバイト先の最寄駅に着いた私は、近くのカフェで時間を潰すことにした。
何気なく入店したカフェで、ホットのチョコレートドリンクを注文。このカフェは、他の所と違ってすごく落ち着く。理由はわからないが、他にはない居心地の良さを感じた。「また来よう」。心の中でそう誓った。

次のシフトの日、いつもより早い電車に乗り、バイト前にそこのカフェを訪れることにした。当時受験を控えていた、ビジネス系の資格試験の勉強をすることにした。そのとき、前回レジを担当してくれた店員さんが話しかけてくれた。
「この間もいらっしゃって下さいましたよね。ご来店ありがとうございます」

すごく嬉しく、笑顔が溢れた。コップにメッセージも書いてくれた。美味しいチョコレートドリンクと店員さんからのメッセージで心が癒された。やる気は倍増し、いつも以上に勉強がはかどった。

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その後も、来店するごとに多くの店員さんと言葉を交わすようになった。
「いつもお疲れ様です」「応援しています」「お久しぶりです」
そっと背中を押してくれる言葉をかけてもらい、大変な資格の勉強も、バイト先の慣れない業務も全て頑張る事ができた。気づいたら、束の間の休みをそのカフェで過ごすようになっていた。

資格試験当日、少し緊張していたのを覚えている。
今まで挑戦したことのなかったジャンル。0からの挑戦だった。しかし、今まで積み上げた努力と、カフェの店員さんから頂いた言葉を思い出し、いざ受験会場へ。
結果はその場で分かるシステムとなっていた。ドキドキしながら結果を確認すると、合格の文字が目に飛び込んできた。
「すぐにカフェに行って店員さんに合格を伝えたい」
そう思った私は、電車に飛び乗り、カフェへ向かった。お気に入りのチョコレートドリンクとプチ祝いのチョコレートケーキをテイクアウトで注文し、店員さんに合格を伝えた。すると、「おめでとうございます。今までの努力が報われましたね」と笑顔で言葉をかけてくれた。

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商品を受けとり、自宅へ向かう。帰宅し、ドリンクとケーキの箱を袋から取り出したとき、ケーキの箱に「おめでとうございます」のメッセージが書かれていた。心があたたかくなったと同時に、特別なお祝いになった。

その後も変わらず通い続けた。忙しくも充実していた日々の中で、このカフェにいる時間は、ほぼ唯一心が落ち着くと言っても過言ではない時間を過ごす事ができた。
美味しいチョコレートドリンクとシナモンケーキ(店員さんおすすめの、シナモンパウダーをたっぷりバージョンが特にお気に入り)、そして大好きな店員さんたちのあたたかい言葉が最高の癒しを提供してくれた。

現在はアルバイトを退職し、新たな地域で奮闘している。そのため、思い出のカフェにはなかなか行けていない。
最後に訪れてから1年ほど経ってしまったが、店員さんたちは覚えてくれているだろうか。もし、覚えていなかったとしても、癒しの時間を提供してくれることに変わりはないだろう。
私の束の間の休みを、またそのカフェで過ごしたい。