学生時代、クリスマスは誰かのものだと思って過ごしていた。
小さい頃のクリスマスへのワクワクは、年を重ねるごとに薄くなり、今ではただの1日に過ぎない。それでもクリスマスの存在を忘れなかったのは、必死にアルバイトをしていたからだろう。
ほとんどの方がクリスマスにお世話になるであろう、某チキン屋でアルバイトをしていたわたし。高校生のときから始めて、3回目のクリスマスをバイト先で迎えていた。毎年本当にクリスマス前後は忙しい時期で、予約を取ったり、必死だった記憶しかない。
年間を通してかなり大変な時期だったと今でも思う。それでもお店のスタッフさんたちはみんないい人だったし、3回目のクリスマスまで続けてこられるなんて入りたてのわたしには想像できなかっただろう。

クリスマスはバイトばかりの私。友達とクリスマスを過ごしてみたい

「ありがとうございます、楽しいクリスマスをお過ごしください。3回目の年は、偶然にも日曜日にクリスマスイブの24日が当たるという例年よりも大変な年。予約されたお客さんに商品を手渡すポジションを与えられたわたしは、間違いがないか必死に確認しながら数十メートル先まで並んでいる列を見ていた。
うわぁ……これ、いつ途切れるんだろう……。前の日も昼前から働き続け閉店後にあがったから、今日も同じような時間帯になるだろうと腹をくくっていた。家族連れやカップル、友達同士でパーティーでもするのだろう同世代の女の子達も受け取りに来た。
この人たちのために頑張っている自分偉い!と励ます反面、ここ数年クリスマスに家族や友人と特別なご飯やケーキを囲んでパーティや食事をしていなかったわたしは憧れもあった。来春から就職、地元から離れることも決まっていたわたしは1度でいいから友達とクリスマスを過ごしてみたいな、とふと考えてしまう。
それを承知で選んだバイトだ、最後までやり遂げて終えたい。そう自分を奮い立たせて夜までしっかり働いたのであった。

「あんたいなきゃ始まらないもん」。突然バイト先に現れた友達

それから時間は経ち、いよいよお店閉店の間際になった。今年も無事に終えられる…ホッとした矢先。
「すみません!クリスマスパック2つください!」
片付けをしていたわたしに突然、声がかけられる。
もう閉店なのに……と思い顔を上げたらそこには友人が2人。高校卒業してから仲良くなった友人たち。年は1つ2つ上だがよくご飯や遊びに誘ってくれる優しい人ばかり。今日は他のメンバーも集めてパーティするんだ、なんて言ってなかったっけ……?
しかも、住んでるところはかなり離れてるんだけど……。
「なんで?遊びに来たの?クリパの真っ最中じゃなかったっけ?」
「まだ始めてないんだよねぇ……。だから誘いに来た」
「えっ!!!!」
かつてないほど大きな声を出した。周りのスタッフさんに驚かれるくらいには。
「ずっとバイトだったんでしょ?お疲れ様!これからうちに移動するけどここで待ってるから終わったら着替え持って一緒に行こうね」
「いいの?」
「あんたいなきゃ始まらないもん。このチキンの美味しい温め方とかさ!わたしら知らないからちゃんとやってよね!」なんて断れない、けれど傷つけない誘い方をしてくる。

「遅くなったって待ってる」。25日の夜、1番笑顔の接客ができた

長時間働いていたわたしの心にかなり染みた。LINEや電話じゃなくて、わざわざ来てくれるなんて。
「まだ片付け終わってないから遅くなるけど……大丈夫?」
「わたしらのクリスマスはこれからだよ!遅くなったって待ってるから!」
「ほら、また頼んだもの来てませんよー、店員さん!」なんて言われてしまったら、張り切ってしまうじゃないか。まだチキンもある。わたしは今日1番丁寧に商品を詰め、追加でシャンメリーも入れた。こんなにパーティーに誘われるって嬉しいんだなと、顔が緩みきっているに違いない。
急いで片付けて早く上がろう。そしてみんなと一緒に美味しくご飯食べよう。
わたしにも、クリスマスは来る。一緒に過ごしてくれる友人たちがわたしにもいる。
「ありがとうございます!楽しいクリスマスをお過ごしください!」
25日の夜、1番の笑顔の接客ができた。