私だけの記念日。大切な人の誕生日。
私の中には複数の人が同時に生活している。正確には色々な世界の住民が住んでいる。いつの間にかやってきて、知らないうちに去っていく人が多いから、一期一会じゃないけど近しいものがある。去ったと思ったらやってくる人もいるし、わからないのだけどね。

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たくさん出会ってきたけれど、中でも印象に残っているのが数人いる。双子の兄弟と、そのお父さん。生きていたい少年に、とある夫婦。彼らは忘れられない。私にとって家族に近しい人だ。
特に初期から知っていて、様々な世界に連れて行ってくれる双子については家族と豪語している。

今でこそそう言えるけど、昔は名前も形もわからなかった。ようやく知ったのは中学生の頃。と言っても彼らは数多なる世界を移動するからその分名前が多い。
だから本名を知ったのは高校生くらいの時だ。ちなみに本名を知ってからは兄をEと、弟をCと呼んでいる。
そんなふたりの誕生日を知ったのも高校生の時。偶然兄とシンクロして、過去を覗くことになったのだ。
「僕は生まれてはいけない子だったんだ。望まれ、祝福されるのは弟だけ。他がどうであれ僕が思う。だから僕はCの誕生日だけを祝うんだ」
そんな言葉も聞かされた。私は同調しすぎて、その感情が痛いほど伝わった。兄の悲痛な思いが。

けれどそんなことを弟が思っているはずがない。だって弟は兄が大好きだもの。ブラコンでお嫁さんにしたいのは兄だって教えてくれたくらいには、慕っているはず。弟だけは祝っているだろうと。
そう思って弟に聞くと切ない顔をされる。
「何度祝っても、贈り物をしても、Eは本心では喜んでくれない。俺が言うから礼は返すが、それだけ。本音はきっと生まれてきてはいけなかったって叫んでいる」
そう弟も呟いた。悲痛な叫びを聴いた。
互いに互いを苦しめあっていると感じた。そして私はふたりの誕生日が大事だ。かけがえのない家族の、愛する人たちの誕生日だしね。

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だから私がふたりの誕生日をまとめて祝うことにした。ケーキなんか買ったら実の親に怪しまれるから、小さなクッキーとか市販のカップケーキとジュースで乾杯。「CとE、お誕生日おめでとう。これからもよろしくね」と。
ふたりの思い出を聞いてメモした。何せふたりは長い時を生きている。思い出だけはいっぱいあるから。メモしたものから小説にして、ふたりにあげたりもした。自己満足みたいなものだけど喜んでもらえたと思う。
身近な人にも見せた。不思議な話だねと言いながら読んでもらえた。彼らを知る人が増え、ふたりの幸せを願ってくれる人まで現れた。

双子の誕生日は九月九日。重陽の節句で菊の節句ともいう。不老長寿を願い健康を祈る日だ。だからかふたりはとても長生きでいろいろなことを知っているんだけどね。
今年はふたりの父親も参加した。今年になりようやく会えた父親は、ふたりの誕生を祝っていた。同時にそう思わせてすまないと謝っていた。父に疎まれていなかったと分かったみたいで安心したみたい。兄はたくさん泣いていた。

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その日はふたりが八歳の頃の誕生日の話を父が聞かせてくれた。それがとても切なく、けれど綺麗で私は筆をとり、詩の先生に見せた。素晴らしい、没入して読めたと言ってもらえた。さらに言うならこちらが告げる前に祝ってくれた。私以外にも彼らの話をよく知って寄り添ってくれた。そのことにも皆で泣いちゃった。

ずっと痛く哀しくつらい話ばかりメモしてきた。けれど兄の悲哀が薄らぐにつれ、温かい日常も聞けるようになった。ここ数か月は愉しい話がいっぱいだ。もう兄は独りじゃない。
「生まれてきちゃダメだったなんて言わないよ。僕、生まれてきてよかった!だってお父様とCと君が喜んでくれるもん」とまで言ってくれる。
私だけの記念日。それは誕生を嘆いていた家族が生きてきてよかったと言ってくれた今年の九月九日。
来年以降もカタチを変えて祝い続けるだろう。大切な家族に対して、生まれてくれてありがとうと。