女性なら一度は考えたことがあるであろう妊娠、出産について。
私の場合、成人前から「自分には無理だろう」とあきらめていた。
高校生になっても生理が起こらなかった私は、病院で女性ホルモンの不足による無月経と診断された。薬で女性ホルモンを補充することで生理は起こるようになったのだが、排卵には至らなかった。
それでも日常生活を送るうえで不便に感じることはなかった。

「自分は子供を産むことはできないかもしれない」。その現実に対して初めて真剣に悩んだのは、25歳の時。当時付き合っていた夫との結婚を意識し始めたころだった。
思い切って事情を打ち明けたら、おおらかな性格である夫と義両親は「子供がすべてではないから」と受け止めてくれた。
結婚後、事情を伝えていたこともあり、義実家から子供について詮索されることもなく、時々喧嘩をしながらも私たち夫婦はそれなりに仲良く暮らしていた。

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そんな私が今年の8月、不妊治療を始める決断をした。
きっかけは単純ともいえるだろうが、夫の兄弟夫婦が揃って妊娠したこと。同い年の大親友が子供を産み、抱かせてもらった赤ちゃんの柔らかさと温かさに感動したこと。
体力的な問題により断念したが、実は大学で幼児教育を専門にしていた私は子供が大好きだ。
「もし叶うのなら自分の子供を抱いてみたい」「何もしないうちから自分には無理だとあきらめたくない」という思いが頭から離れなくなってしまった。

定期検診に通っていた婦人科では、排卵誘発剤を使うことで妊娠の可能性があることを伝えられていた。私は現在仕事をしておらず、時間はたっぷりあった。
来年は30歳という年齢もあり、今この時期を逃すと子供を授かる確率が下がっていくという現実もあった。
家族に相談すると、夫は「もし子供ができたら正直嬉しい」と賛成。小さい頃から体の弱かった私のことをずっと心配してきた実母には反対されると思ったのだが、「今しかできないからやってみたら」と思いのほか賛成してもらえ、続けて母の口から出た「あんたが子供を産んだら可愛いだろうな」「もし子供が生まれたら助けてあげられるよ」という言葉にも背中を押された。

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不妊治療を始めるにあたって、私たち夫婦は話し合い、いくつかの約束をした。
薬の副作用が重いなど、体への負担が大きい場合は無理せず中断すること。
体外受精などの高度治療は行わないこと。不妊治療のタイムリミットは1年とし、それ以上は続けないこと。

治療の最初、採血でFSHとLHという卵子を育てるためのホルモンが全くというほど出ていないことが分かった。低すぎる値のため、すぐに排卵誘発剤を使った治療を始めることができず、ホルモン値が上がってくるまで待つこと約1か月。
初めて打つことになった排卵誘発剤。副作用で体調に影響を及ぼすことも多いと聞いていたため恐れていたが、思ったよりも軽く済み、日常生活に支障をきたすほどではなかったことに安堵した。仕事をしていないため、しんどいときは自由に横になれる環境にも助けられていた。
注射を打ち、エコー検査を受けるために連日病院に通うのは大変だったが、段々と効果が現われ卵胞が少しずつ大きくなっていく様子を見られることが励みになっていた。

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注射を打ち始めて約20日。ついに卵胞が21ミリまで成長し、成熟。医師からタイミングの指示があった。私達は2人とも緊張してしまい、普段よりはるかに時間がかかってしまったが、無事にタイミングをとることができた。
医師からは3週間後に妊娠検査薬で調べるよう指示されていた。3週間は長く、待っている期間はそわそわと落ち着かなかった。夫婦の間でも、「もし妊娠したらどうするか」という話題が何度も上がった。

タイミングをとった日から2週間たったある日。私の体に異常が生じた。朝から体が怠く、腹痛の症状も出てきた。お腹の調子を崩したのかと思い、トイレに立つと膣から出血していた。
普通なら「排卵の結果、受精に至らず生理が来た」とすぐに気が付くはずなのだが、これまで自然に生理が来たことのなかった私。この時期、治療のため生理を起こさせる薬の服用を中断していたこともあり、出血を生理と結びつけることができなかった。

気持ちが落ち着かず、仕事中の旦那に「体調不良でトイレに立ったら出血していた」という報告のLINEをした。
旦那からはすぐに返事が来た。「もしかしたら妊娠初期症状かもよ」と彼も興奮していることがわかった。
翌日、病院の検査で「生理が起こっただけ」という事実を知ることになる。
ぬか喜びした分落ち込んだが、これまで排卵せず、薬無しで生理が来たことがなかったという現実からすると確実に進歩している、そう自分に言い聞かせ気を取り直した。

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治療は一進一退で、何かある度に喜んだり落ち込んだり。治療の影響で体調不良の日も多く、イライラが募って旦那に当たってしまうこともあるが、焦っても仕方ない。今できることをやるだけ。と自分の気持ちを落ち着かせながら日々を過ごしている。

治療しなかったことで10年後、後悔しないように。子供ができずに夫婦二人の生活となっても納得して日々を楽しめるように。と決断したこと。

治療はまだ始めたばかり。2022年のラストスパートも夫と二人三脚で乗り越えていきたい。