今年立てた目標は、手話サークルに通うことだった。

去年わたしは手話奉仕員養成講座という、市主催の講座に一年間通った。週に一回、三時間みっちりとろう者の講師から手話を習い、正しい文法や表現、伝え方を学んだ。
三月の修了式では講座の仲間たち、講師からの温かな拍手を受け、胸がいっぱいになり、「きっと手話をつづけます!次はサークルに通います」と高らかに宣言した。が、これがまだ一度も行っていない。もう十一月だというのに!

行けなかった、行かなかった理由はいくつもある。
なぜなら、四月に転職し、仕事を覚えるのに精一杯だったから。
なぜなら、新型コロナが収まらず、職場以外の場所へ出かけることが、はばかられたから。
なぜなら、六月に子どもが入院したから。
なぜなら、たまの休日は溜まっている家事をこなして、少し休息して、ぼーっとテレビを見たかったから。

そうやって春から夏に、夏から秋へと季節は巡り、もう冬だなんて。決して手話が好きじゃなくなったんじゃないのに。情熱がなくなったんじゃないのに。しかし、事実、優先順位は下がってしまった。

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家庭と仕事の両立なんて、全女性の永遠のテーマかもしれないが、当事者になるまでは考えたこともなかった。世間のお母さんって、こんなに大変だったのね。
自分の時間って作るの難しいんだな、と、ずっしりどんよりブルーな気持ちになったが、つい先日、勤務先にろう者のお客さまがやって来た。講座で習った手話を使い、簡単な会話をしたところ、周りのみんなに「すごい!どうしてできるの?」「いてくれて助かった」とたくさんたくさん褒めていただいた。
講座を勧めると「わたしも習いたい!」と言ってくれる人までいて、指文字の資料をコピーしたり、教科書を譲ったり、良い手話友達になれた。

手話業界はいま盛り上がっている。デフリンピック(聴覚障がい者のオリンピック)が三年後ここ日本で開催されると決まったり、手話の出てくるドラマが一躍大人気となったり。そういった明るいニュースが耳に入ると、手話と小さく繋がれている気がする。

サークルに行くぞという目標はいまだ達成していないけれど、行けないことにジリジリしていたけれど、案外焦らなくてもいいのかもしれない。ずっと一緒にいた友達が少し遠くへ引っ越したような気分。いや、引っ越したのはわたしの方だったのか。

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昨日、二歳の子どもと手話のドラマを見ていたら、子どもが真似をして自分の胸をポンポンと二回叩いた。
「え?これ、『知ってる』の手話だ!」
すごいな、子どもって。なんでも吸収するんだな。もっと大きくなったら、一緒に手話を覚えてくれるかな。興味を持ってくれるかな。そう想像するのも楽しく、胸がほんわりと温かくなった。

よし、やっぱり行ってみよう。
「11月の開催日を教えてください」
胸を高揚させながら、メールを一通打った。