数カ月に1度、休日をビジネスホテルで過ごすことがある。旅行をするわけでもなく、自宅から1時間以内の場所にあるホテルに行くのだ。
朝から大体夕方頃まで滞在できる日帰りプランで、早期予約特典を利用した値段は4〜5千円程度。フロントで好きなアメニティをとって、カードをかざしてエレベーターを動かす。部屋に入れば薄いスリッパ、小型冷蔵庫、ハンガー2つ。部屋の大部分がベッドで占められている、どこにでもあるビジネスホテルだ。
わざわざ近くのビジネスホテルに行く目的は2つある。
1つ目は推しとのヨントン。アイドルグループのCDを買うと参加できる抽選に当たると、オンライン上で推しとビデオ通話ができるのだ。貴重な推しとの30秒間を0.1秒たりとも無駄にしないため、整頓された背景、安定したWi-Fiを求めて私はビジネスホテルを訪れる。
自分の中での「一軍」の服を着て、1時間近くかけてヘアメイクをして、顔が明るく見えるライトを設置。スマホの画面に「あと○人」と表示される待機時間は、ひたすら推しと話したいことを書いたボードを見ながら口パクでシミュレーションをする。すべては見た目も中身も最高のコンディションで推しとの会話を楽しむためだ。
夢のような30秒が終了し、私はすぐ後ろにあるベッドに倒れこみ余韻を味わう。
これだけでも満足度 120%なのだが、私の休日はまだまだ終わらない。
ここから、私のお休み第2章がスタートする。
ビジネスホテルで作り上げる、至福のダラダラ時間
私のお休み第2章は、ビジネスホテルで思いっきりダラダラすることだ。
ヨントンのために着飾った顔面を、アメニティのクレンジングオイルでためらいもなく落とし、前髪をヘアピンで横に止める。
あらかじめ買っておいたお菓子(大体甘いアイスとポテトチップス)を貪る。ホテルの無料サービスのコーヒーや紅茶を飲みながら、ベッドに寝っ転がってひたすらスマホでYouTubeを見る。
眠くなったら広くてフカフカのベッドでそのまま寝ればいい。スマホの充電がなくなったら、ベッドの近くのコンセントを使って充電すればいい。部屋の乾燥を感じたら備え付けの空気清浄機を使えばいい。
おなかがすいたら近くのコンビニで大好きなお菓子を買う。
自宅の環境より整頓されて、心地いい空間で、選び抜かれた娯楽を満喫する。数千円で味わえる私なりのプチ贅沢だ。
プチ贅沢なのは環境だけじゃない、ビジネスホテルのきれいな空間にいると、なんだか心もおおらかになった気がする。チョコミントアイス1つを買うために、妥協をせずにコンビニを3軒はしごする。普段の休日だったら、1軒目のコンビニで妥協して2番目に食べたいアイスを買うところだが、今日の私はすごく余裕があるので、1キロくらい気ままに歩ける。普段は時間に追われている生活をしているが、今日だけは特別。時間を浪費することも、私にとっては娯楽の1つだ。
ビジネスホテルでの数時間が、私のエネルギーを作ってくれる
心地いい時間はあっという間だ。ホテルステイなので宿泊はできないため、夜になりチェックアウトの時間が近づくと、広げていた荷物をまとめ部屋をあとにする。
馴染みのない夜道を、推しの曲を聴きながらいつもより軽い足取りで歩く。
プライスレスの推しとの会話、お値段以上の思いっきりのダラダラ時間。満足度抜群のお休みで心も身体もエネルギー満タン。明日からの5日間も頑張れそうだ。