しばらく前まで、「会社」はファンタジーだと思っていた。
今年4月に新社会人になった私は、学生時代の就職活動も、内定式や入社式も、そして新入社員研修も、ほぼ全ての時間を自身のパソコンの前で過ごした。

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初めて「出社」したのは、6月1日の本部配属。都心の一等地にある本社のキラキラピカピカっぷりやすれ違う社員を見て、「『会社』って、実在したんだ……」と、今思い返せば当たり前の感想が頭に浮かんでいた。
その後、本社から1時間以上離れている上にそこまでキラキラピカピカでもない事業所での勤務を命じられたが、ほどなくしてリモートワーク中心の生活に移行することとなった。
そして、目の前の業務を覚えることに精一杯な日々が過ぎ去っていく中、ある日ふと気づく。
「あれ、仕事ってこんなに寂しいの?こんなに人との距離感を感じるものなんだ?」

正直に言うと、私は内向的な性格だ。
友達と呼べる人数は両手で足りるし、かと言ってこれ以上友達が欲しいかと言われるとそうでもない。大体の場所には1人で行くことが出来るし、打ち込める趣味もそれなりにあるので、私生活において「寂しい」と感じることは滅多にない。
そんな私が、どうして仕事が「寂しい」と感じてしまったのだろうか。

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答えはすぐに出た。人との距離感の測りづらさ、言い換えると「コミュニケーション不足」だ。
少し偏見が混じった言い方をすると、良くも悪くも会社は同期や先輩、上司やお客様などとコミュニケーションを「取らざるを得ない」環境だと思っていたし、そこで仲良くなる人、逆に険悪になる人、様々な関係が入り乱れる空間だと思っていた。上司に無理矢理誘われる飲み会もコミュニケーションの1つに入るかもしれない。

しかし部署に配属されてからの現状は、(コロナ禍の影響も受けているだろうが)飲み会の気配すら感じなかったし、時々出社してもその場にいる人はまばらである。
そんな中でのコミュニケーションの場は専らTeamsのチャットかZoomだが、見聞きする話題は全て業務に関することで、調子が悪いときはちょっと息が詰まりそうになる。この場で急に「そういえば昨日の〇〇(テレビ番組)見ました?」と話しかけたところで、画面の向こうで冷ややかな沈黙が流れるのは想像に難くない。
「仕事とプライベートはある程度分けたいが、業務を円滑に進められるだけの人間関係は欲しい」という自身の価値観は、恐らくリモートワーク時代でなければ気づきにくかっただろう。

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新型コロナウイルスの流行が収束した後、全員出社に切り替えるか否かについては様々なメディアが議論していたが、「コミュニケーション」という側面だけを考えると、私個人はある程度出社を行うことに賛成している。
なんだかんだ言って、対面での適度な雑談は職場での人間関係の構築に必要不可欠だと思う。

今となっては「無駄」と言われることもある出社・退社の挨拶や会議室などへの移動時間、お昼休憩なども、そこで取り留めのないことを話すことによって相手の雰囲気や人となり、考え方などが垣間見えると考えている。また、それによって相手との距離感も遥かに測りやすくなるのではないだろうか。
長い間同じ場所で働いている先輩方はともかく、私(新入社員)を始めとした新参者にとっては、これらの人間関係構築をオンラインで全て行うのは至難の業である。
(余談だが、私はこのエッセイを投稿した数日前に、やっと同じプロジェクトの先輩方全員と対面でお会いすることに成功した。全員と顔合わせをするまでに約3ヶ月もかかった……)

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とは言え、当面はリモートワーク中心の生活になることは避けられない。
そこで、私が自分なりに編み出した「リモートワーク時代のコミュニケーションで意識していること」について、些細なことではあるが共有したい。

皆さんは、「魚心あれば水心」ということわざをご存知だろうか。「相手が好意を示せば自分も相手に好意を示す気になる、相手の出方次第でこちらの応じ方が決まる」という意味である。
意味を聞くと若干受け身的な印象を受けるが、私はこれを自分中心の視点に置き換えて「自分がポジティブな感情(やる気、元気など)を示せば、相手も積極的に好感を持って関わろうとしてくれる」と解釈している。
入社1年目は、作業手順を覚えたり職場環境に慣れることで手一杯で、プロジェクトや職場に貢献出来ることは少ない。むしろ、毎日何かしらの形で迷惑をかけてばかりである。

そんな中でも、例えカメラオフのZoom越しであろうと普段の態度だけは気を抜かないでおこう、と常日頃意識している。具体的には、声のトーンを上げる、明るくはきはきと受け答えをする、リアクションやあいづちを対面の時よりも10%オーバーにする……などである。そうすれば、先輩方も少なくとも私を嫌っては来ないはずだ(と信じたい)。

今はパソコンの画面の前で覚えたての業務をただひたすらにこなすばかりの日々だが、いつか職場の人々とも、より多くのコミュニケーションを取れる環境が訪れることを願っている。