私を変えたひとことは、「失敗を楽しんでください」というアルバイト先の先輩からのひとことだ。
私は、不器用なくせに変に完璧主義なところがあり、何かミスをするとすぐに落ち込んでしまう性格だ。親にも、忘れ物をするなど小さいことでも、将来社会に出たら絶対に苦労すると言われ続け、親に怒りを覚えるとともに、自分が自覚しているダメな部分は常に心の中にドロドロと付きまとっている状態だった。
コミュニケーションに関しても、すぐに心を開ける性格ではなく、会話を反省したり相手の反応に敏感になったりして、人と関わることの難しさから解放されたいと感じ友達とも疎遠になっていた。
アルバイト先で感じていた居心地の良さ。先輩の言葉で理由がわかった
そんな私が勤めているアルバイト先は、基本PCを使ったリモートワークだが、少人数で社長ともたまにご飯をご一緒できるような距離感の近い職場である。自分に自信がない私でも不思議と居心地の良さを感じ、もう3年間続けて大学4年生の今に至る。
そのアルバイト先のひとり、30代の先輩はバンドマンで、バンド活動の夢を追いかけ遠くへバンド仲間と引っ越す計画を立てつつ、リモートワークでバリバリ仕事をこなしているガッツと自由の人だ。
私が社会人になるのが不安だと先輩に話すと、「すぐにやめちゃっていいんですよ」と笑っていた。また「失敗を楽しんでください」ともその後に付け加えた。私はこの言葉を聞いた瞬間、このアルバイト先で感じていた居心地の良さの理由が全てわかった気がした。
このアルバイト先の人たちは、本当の意味で利益の追求をしている。同じことで何度も質問してしまっても、ケアレスミスがあっても、どうしてこういうマニュアルになっているか、どうしてこういったミスが起こりうるか、根本から説明してくれる。
前のアルバイト先に比べて「ゆるい」のではないかと感じた。だが、ゆるいのではない。物わかりの速さではなく、仕事の正確さが優先される職場であるのだ。
「ご質問ありがとうございます」の一文に救われた
仕事を与える側、受ける側の双方に責任があることをお互いがわかっている。そのため、ミスをすると、原因の対策をしっかり教えてくれる。時には電話で、時には文章で、相手の理解に重点を置いているため、最初は時間がかかる。教えているうちに仕事内容が変更され、何度も何度も上書きされていくこともある。そのたびに質問が増えることは必然である。
私は、ミスや質問をとがめられたことこそなくても、迷惑をかけているなと感じていた。しかし、質問すると必ず「ご質問ありがとうございます。」とメールが返ってくる。ビジネスマナーに則ったありふれた一言かもしれないが、私はこの一言や、指示を出してくれる社員さんの丁寧な対応に救われた。しばらくすると、事細かな質問を褒められるという事態にも出くわし衝撃を受けた。
ここで気が付いたのが、質問は信頼を勝ち取るということだ。どこまで理解できているか、どの視点から作業を考えているか、経験豊富な社員さんは私の質問から大体把握できる。
就職活動中、インターン先で社員さんの言ったことを復唱して確認した時も復唱を褒められ驚いた。もちろん、質問を返す方はその分の労力を割くことになるから、反射的に質問して相手を困らせてはいけないとは思う。質問の質が信頼を勝ち取るのだ。
怯えたり、構えたりしなくていい。もっと気軽に意欲的に生きていこう
質問をする、質問に答えるというのは、私にとって何よりの処世術であると学んだ。
失敗の裏側には、質問の質が低いことによって起こる思い違いや、理解不足が隠れている。もちろん失敗には、頭から教えてもらったことがすっぽり抜けて、正真正銘私のケアレスミスであることもある。でもそこで、注意してくださいの一言で終わらせず、この作業はこういった段階の工程があり、ここの理屈に沿えばさっきのミスに気が付くはずですよと根本を教えてくれるのが私のアルバイト先である。
そうするとまた理解していないことを思いつき、より発展した質問ができて、理解が深まる。その結果同じミスは起きにくくなる。質問をするということから発展して、質問内容を考えていると、仕事内容の意味を問うということに繋がり、業務の効率改善にもつながると思う。
「失敗を楽しんでください」という言葉は、日ごろから質問を怠らず理解を深めようとしても起こりうる問題に、怯え構えるのではなく、自分の理解度を反省しつつも、意欲的に理解を深めていってくださいという意味にとることができた。
このアルバイト先の姿勢を一言でまとめると、きっとこの言葉になるだろう。この言葉は、私を変えた。性格や考え方が変わったのではなく、この言葉が今までアルバイト先で学んだことを再認識させ、私がもっと気軽に意欲的に生きる方法を示してくれた。そうはいっても仕事は単純じゃないと声をあげて下さる社会人には、ぜひいろいろと質問させてほしい。