「販売職にもキャリアアップがあるのであれば、まずは店長を目指して頑張りたいです!」
入社して1年目。半期に1度行われる面談で、担当リーダーにそう話してしまったことがある。
当時、本当に思っていたことは間違いない。せっかく社会人になって働くのであれば、実力をつけて、それが認められたうえで役職に選ばれたい!そう考えていた。

しかし、役職に就くのは別に実力が認められて、選ばれるわけではなかった。日頃の働きによほど問題がなければ、上司が異動や産休、辞職になってポストが空き次第、自動的に繰り上がりになる。昇格試験があるわけでもないので、現実はそんなもので。

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入社してから4年目で副店長、6年目に店長と順調に役職は上がっていく。
あの頃思い描いていた目標は、淡々と着実に叶っていった。コツコツと一生懸命に日々を過ごしてはいたが、誰かの上に立つことになる勉強や心構えなどを学ぶこともなく、悠長にしていたらなってしまった。というよりも、なれることを知ってしまっていたから、あえて勉強せずともと自分を甘やかしていた部分もある。

ただ、店長になった頃には、自分は人の上に立って物事を進めるような実力はないと薄々感づいていた。
1対1とのやり取りは得意だが、何人かとのやり取りは苦手だった。教えるのも、頼るのも苦手。
仕事は仕事と割り切るタイプだから、同僚と話すときは上っ面のことしか話していなかった。そのため、後輩から見てわたしは「良い人だけど、プライベートが見えないタイプ」だと思われていたらしい。
どうやら店長職は、わたしの苦手要素が詰まったものだったようだ。気づくのが遅かったな。

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そんな奴が店長になって、ある日のこと。突然の人事異動が発表されて、売場にいるメンバーでそこの仕事がわかる人が2人になってしまった。そして、売場のことを新たに教えなくてはいけないのが2人。

わたしにとって、今まで味わったことのない絶望。
初めての店長業務。その日の業務を終えるだけで精一杯の日々。引継ぎも後輩にできる時間もなくて、どこから手を付けたらいいかわからない始末。コロナ禍で売場のスタッフは最低限でと言われ、さらに追い詰められている感覚。さらにはスタッフのコロナ感染。
「助けて」と心では叫んでいた。ひとつひとつ対処していかなくてはいけないのはわかっていた。でも、家に帰ってからもシフトを作って、売上の対策を考えて自分の時間を削ってもその状態は変えられなかった。

限界が来て体調を崩して、4ヶ月休職した。
新入社員の頃、目指していた店長歴は約5ヶ月で幕を閉じた。

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仕事は辞めず復職をしたわけだが、休んだことで気づいたことがある。入社のときと今では、働く理由が違うと。
たしかにキャリアアップを目指して入社したのかもしれない。けれど、働いているうちに見えてくる現実はある。それは役職がつくことで変わってくるものであったり、なるまでの過程が想像とは違ったりというものだ。
「それでも、わたしはなりたいのか?」と自分に問うてみれば、答えはNO。じゃあ、それをなくして働く理由はなんなのかというと、「自分の幸せのため」だ。

身を粉にしてまで働きたいなんて、プライベートの時間を削ってまで働きたいなんてもう思わない。会社のためになんて働かない。それは建前にして、自分が働いたうえで得られたもので幸せを手に入れるために働く。

美味しいものを食べたり、旅行に行ったり、推し活をしたり。自分のご機嫌を自分でとるために必要な経費を稼ぐ、ただそれだけだ。
心の平穏を保つために働いてるけど、その経費でも抑えられない働き方をするようなら次のステージに行こうという合図。

「会社を辞めたいです」
これが、わたしの未来の幸せのためへの第一歩。