私は1年半前に、新卒から5年半働いていたスーパーを退職した。
5年半働いた中で、上司、部下、パート・アルバイト社員、取引先のメーカーさん、お客様など様々な人に出会った。そんな中で、私にとってこの先も一生忘れないであろう出会いがあった。
それは、入社1年目の終わりに出会った店長だ。

入社2年目、全く仕事ができない私は途方に暮れていた

私は新入社員で売場の担当者だった。当時いたお店は大型店で、従業員は200名いた。そんな中異動してきた店長は、私の9つ上の女性の店長だった。
当時の会社でまず女性の店長が大変珍しく、全店で2、3人いるかいないかだった。しかしその店長は、着任前から噂は相当聞いていて、とても厳しくて怖い店長だと誰もが知っていた。

一方、当時の私はもうすぐ入社2年目になるにも関わらず、全く仕事ができないというかやり方が分からなく、とてもじゃないが正社員という感じではなかった。
それに対して私自身も悩んでいたが、売場担当なのに、何しろレジ応援に長時間入り売場を見ている余裕が全くなく、そして直属の上司が私が入社して2か月で異動になり、教えてくれる人が誰もいないといった理由からこの現状をどうすれば良いのか分からなかった。

そんな私を新しく着任した店長が変えてくれた。結果、私は入社3年目の終わりに2店舗目に異動し、そこで副店長に就任した。
しかしその間の約2年間、本当に濃厚で色々なことがあった。店長が着任してすぐに、私は店長に「あなたはパート以下だ」と怒鳴られ、「同期に比べると1年の遅れを取っている」と言われた。それは自覚済みだったが、いざ言われると目が覚めて自分の情けなさを思い知った。

そこからは毎日叱りのオンパレードで、多い日は1日3回も怒鳴られ、私が休みの日も売り場を見た店長から怒りの電話が来ることも最早日常に。また、当時の私は遅番が多かったため、朝出勤した店長から怒りのモーニングコールで目を覚ますことも多かった。
人生で一番怒られたのは後にも先にもなく、間違いなくこの2年間だった。

怒られてばかりの私を救ってくれたのは、恐ろしい存在の店長だった

店長に怒られてばっかりの私にとって、確かに店長は恐ろしい存在だったが、しかしそれ以上の存在でもあった。怒り方は激しいが、入社2年目になるにも関わらず何も分からない私に仕事を一から丁寧に教えてくれた。

今まで誰に聞けば良いか分からなかった私を救ってくれた。次第に私は、店長に早く認められたいという一心で仕事に対して積極的になり、店長に注意される前に先回りして仕事を進められるようになっていった。

また、店長に売り場に対して聞かれるだろうと思うことは、先に調べておいていつでも答えられるようにしていた。その甲斐あって、入社2年目の終わり頃には店長に叱られることも減り、周りの従業員からも「変わったね」と言われるようになった。

そこから店長とは退勤後に一緒にご飯を食べに行く仲になり、よく私の家で惣菜の残り物でパーティーをしたり、新商品が出たら試食会をしたり、冬には鍋パをしたりした。たまに仕事終わりにスポッチャに行った。
職場では一貫として上司と部下の関係でもちろん厳しいが、退勤後にはオンオフを切り替えてくれて、店長でいるときの厳しさは一切なく私のやりたいことを優先してくれた。

店長は次の日の出勤が早いにも関らず私に付き合ってくれて、次の日遅番の私が後から出勤すると、昨日遊んでいた面影は勿論なくビシッとした店長がそこにいたから、私も上手く切り替えができた。なによりも一人暮らしだった私にとって、一緒に夕飯を食べる人がいることが嬉しく、美味しかった。

やがて店長は、一生超えられない目標の人になった

店長は自分に対しても厳しい人で、真面目な人だった。また、曲がったことが大嫌いで、会社のルールは絶対の人だったので多くの人やものと戦っていた。
そんな真っすぐな店長を間近で見られて、私はいつしか店長のことを心から尊敬するようになり、一生超えられないであろう目標の人となった。
そんな私の人生を変えてくれた店長とは、私が異動してから退職するまでの期間も電話で相談に乗ってもらったいたが、私が退職してからはなぜか恐れ多くて電話ができずに1年半が経とうとしている。
このエッセイを書いている中で、当時の色々な想いが込み上げてきて店長に会いたいという気持ちが強くなった。そして勇気を出して電話をしようか考えている自分がいる。