家を出たいと、ずっと高校生の頃から考えていた。その意思を胸に、私は一人暮らしを決意した。
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就職と同時に家を出た。出来るだけ職場から近い方がゆっくり寝ていられるだろうと考え、私は職場から徒歩10分ほどの場所にあるアパートに引っ越した。
何と言っても、家具と生活用品を揃えるのが大変だった。
家では当たり前のように補充されていたシャンプーや歯ブラシも、自分で調達しなくてはならない。それから、注文していた食器棚を段ボール箱から取り出したはいいが、組み立てが複雑でかなり時間がかかってしまった。
それから、足りないものがかなり多くあることにも気付いた。幸いアパート付近にはスーパーやダイソーもあり、生活雑貨を揃えるには苦労しなかった。洗剤や掃除用具、キッチン用品など、引っ越す前には分からなかった足りないものだけでもけっこうな量があり、両手いっぱいのビニール袋を下げて家とお店の間を往復していた。
自分を生かすために必要なことを、自分で全てやらなければならない。そのことが段々負担になっていった。
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私は当時精神を病んでいて、家族から離れれば環境が改善されて、病気も多少良くなるかもしれないと思って一人暮らしをした。それなのに、精神状態は悪化していくばかりだった。毎日アルコールを摂取し、自分を傷つける生活しか送れなくなっていた。
そんな私を見かねて、母親や姉が時々家に来ては、食事を作り置きしてくれたり、話し相手になってくれた。話している間はいいが、二人が帰ってしまう時の、玄関のドアが重々しく閉じる感覚がどうにも私を孤独にさせていた。世界と自分が隔絶される瞬間のようにすら感じられて、私は気付いた。
私は今、孤立しているのではないだろうか?家族以外に頼ることが出来る人もおらず、職場でのストレスも募り、当初目的だった自立が遠く離れていってしまっている。孤立と自立は、近いようでいて、遠い位置にあるものだと実感した。
家族にあれこれ口出しをされながら食べる食事のほうが美味しかったことを思い出して、一人で自炊した料理を食べて涙がこぼれた。そこで私は、一人暮らしを続けることは難しいと判断し、実家に戻った。
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一人暮らしをすることで心が軽くなる人も居れば、私のように苦しくなってしまう人も居る。人それぞれの暮らしがあるが、一人暮らしは私にはまだ早かったようだ。
今は家族と暮らしながら、自分に出来る家事をしたり、家に生活費を入れて少しでも暮らしの役に立てるようにやりくりをしている。
今思うと、就職し始めて新しい環境に慣れなければならない状況下で、畳み掛けるようにして一人暮らしを始めてしまったこともストレスの原因になっていたように感じる。私はきっと、孤独でいる時間は大事にしたいが、完全に一人きりになると精神的支柱がなくなり、生活がままならなくなってしまう厄介な体質なのだ。
いつか一人で生活していくことになるのは分かっている。だからこそ、今は家族と自分を大事にして、少しずつ自走出来るようにゆっくりと補助輪付きで走り出している最中だ。