2019年の12月に中国の武漢市で第1例目の新型コロナウイルスの感染者が報告されてから、世界中でパンデミックが起き、2020年の4月には日本全国に緊急事態宣言が発令された。
そして、現在も同調圧力の国、日本は屋外であっても真夏であってもマスクを装着する人が過半数であり、世の中にはマスク警察が多く存在している。

今や、日本で生活している人間にとって、マスクは下着のような代物になっている。
確かに、鼻から口元という部分は性器と同じくらいグロテスクな部位にも見える。
食べ物を食べたり、歌ったり、話したり、キスをしたり、といった人間の動きというのは、人によってはとても汚らしい動作に見えるし、人によってはセクシーな動作にも見える。

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私は、コロナ禍になる前からストレス解消法として、整形外科医院がYouTubeに上げている脂肪吸引やワキガ剪除法、額形成、小陰唇縮小、包茎手術、などといった手術動画を見ることが好きであったが、マスク生活をキッカケに美しさや顔のバランスを左右するパーツが鼻であるということを以前より更に強く痛感し、真剣に美容整形について考え、調べるようになった。
また、日本では矯正歯科治療に保険が適用されないこと等から歯並びを整える人が少ないが、マスク生活を通じ、マスクを外した時の歯並びの悪さが与えるインパクトの大きさを思うと、海外の人が「日本人は歯並びが悪い」と言うのも仕方のないことだ、と感じた。

人間は隠されるモノに興味を抱き、勝手な想像を膨らませる生き物だ。
初対面の人のマスクの下に隠された顔の3分の2に、見えている3分の1が期待をさせる作りであればある程、期待値は上がった。
コロナ禍の日本には美人やイケメンが街を埋め尽くした。
マスクを剥がして顔の下半身が見たい、という好奇心と、褒め言葉として相手に伝えることの出来ない"マスク美人"や"マスクイケメン"というディスりは毎日、私の中で暴れた。

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そんな時、私の職場に異動してきた数名の上司。
彼らの素顔が見れる瞬間は、1日の中で昼休憩だけだった。
ある日、同期たちは言った。
「○○さんの顔、想像してたのと違ったなー」
「あんなに鼻から下がモワっとしてるとは思わなかった(笑)」
「あ〜、口ゴボってやつ?」
「目だけは綺麗だよね」
「○○さんも何か違った。地味にショック」
「やっぱマスク取ると年齢出るなって感じ」
「ほうれい線とかシミとか割とあったよね(笑)」

所謂、"マスク詐欺"。
彼女たちの会話を聞いて、初対面の人に会ったら、自分は必ず直ぐにマスクを外そう、そう誓った。

そして、みんな好き勝手言いまくりだな、と思いながらも、とても素直な意見であり、言うか言わないかだけの違いであって、これが現実で、マスクが及ぼす被害ってこういうことなんだよな、とも感じた。
自分もこう思われ、裁かれているのだと思うと恐怖でしかなく、今すぐ整形外科の予約を取りたくなった。

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私は20代をマスクで終わらせるのだろうか。
マスクの下に自分でも気づかぬ間にシミやシワを作って、老いていくのだろうか。
そして、コロナが終息する頃にはマスクを外せないような、外したいと思えないような顔の醜さになってしまうのだろうか。
私はコロナもマスクも憎くてたまらない。