年初めに、留学に行くことが決まっていた。
出発準備に追われていた頃、突然懐かしい人からDMが来た。
高校の同級生で、整った顔立ちの、くしゃっと笑う笑顔が素敵な人だった。
けれど私にとって彼は“親友の彼氏”で、私は親友とその彼のお似合い美男美女カップルの2ショットを学校行事の時に撮る係だった。
◎ ◎
「久しぶり、元気? 友達から聞いたんだけどさ、留学行くの?」
「元気だよ、うん!そっちは元気?」
「うん、元気。急なんだけどさ、留学行っちゃう前に一緒にご飯行かない?」
驚いた。突然すぎるこの状況に少し戸惑って、でも心の中はすでに少しソワソワしていて、高校時代の写真を見返している自分がいた。
その後、2人でご飯を食べに行った。
大学生活どう過ごしてきたのか、どういう恋愛をしてきたのか、高校時代の話、他愛ない話で盛り上がった。
クリスマスイブに、お互いのバイト終わりに少しだけ会って、ちょっとしたプレゼントを交換した。
「クリスマスって街がキラキラしていていいよね、世のカップルたちは幸せそうだね」
そんな会話をしたりした。
出発を数日後に控えたある日の夜、深夜3時ごろこっそり家を抜け出して彼の迎えにきてくれた車に乗り、夜の東京をドライブした。好きな歌をお互いに流して歌って、深夜テンションってやつも相まって、たくさん話したり、ふざけ合ったり、とにかくたくさん笑った。それから海岸で日の出を見た。
「元旦じゃないけど、今年初めて見た日の出だから初日の出だよね」
そう言って2人で笑って、写真を撮った。
◎ ◎
きっとお互い好きだって、分かっていた。
でも、「今は誰とも付き合わないかな〜、留学に集中したいから」そう言って濁した。
まだ数回しか会ってないのに、1年間という決して短くはない期間をトラブルなく乗り越えられる自信はなかった。付き合って、別れたくなかった。
出発する日の前日、夜、電話がかかってきた。
「ねぇ、やっぱ好きだよ」そう言われた。
「ダメだよって言ったじゃん」そう返した。心がぎゅっとなって、苦しかった。
「だって好きなんだもん」
「私も好きだよ」そう、返してしまった。
そんな気持ちを抱えたまま、私は海外へと1人で飛び立った。
渡航後、ホームシックや孤独感で気持ちが想像以上に落ち込んだ。そんな私に時差がある中、毎日夜中まで電話して、たくさん励ましてくれた。自撮りしたビデオも送りあった。
そして4月には桜の写真が送られてきた。
◎ ◎
「来年は一緒に桜見に行こうね」
まだ先の、決して近くない未来に約束をしてくれた。嬉しかった。
早く会いたい、大好きだよって伝えたい。
手を繋いで桜並木を歩く私たちを想像しながら、幸せな気持ちで眠りについた。
ただ、現地での孤独感、不安感、というのはどうしても拭いきれなかった。
自分が所属していると感じられる場所、自分の絶対的味方でいてくれる人が必要だった。
現地で仲良くなってよく一緒にいてくれた、優しげな顔の目が緑色の男の子に、告白をされて、キスしてしまった。抱きしめられると、孤独や不安が薄れていった。
罪悪感は、ちゃんと感じていた。
その罪悪感から、彼の電話を少しずつ断るようになった。
現地の友達との交流を優先すると、電話の時間もほとんど取れず、返信も遅くなった。
その後もメッセージのやりとりは続いていたけれど、ある日、未読無視された。
現地で知り合った彼とは、その後少し関係を持ったが結局、破局した。
遠く離れた場所にいる彼のことを、ずっと、忘れられなかった。
◎ ◎
1年後、私は帰国した。
今日は1年前、彼と深夜ドライブに行ったあの日。
もう少し違うタイミングで出会っていたら、あの時私が孤独感と安心という誘惑に負けなかったら、連絡を取り続けていたら、もう少し彼のことを思いやることができていたら、
きっとこの恋はもっと幸せだった。
桜が満開に咲く頃、私はきっとまた彼のことを思い出す。
くしゃって笑う君の笑顔を思い出して、胸が苦しくなる。
未来に約束なんて、しなければよかった。
でも、君にまた出会えてよかったと思う。私は君に救われたし、一緒に過ごした時間は幸せだった。
結局ちゃんと伝えられなかったけど、大好きだったよ。