私が好きな自分。
それは意志の強くてかっこいい私。
自分の考えを伝えられる、ぶれない自分軸を持つ女。

セフレを好きになった私は、そんな強い自分とはほど遠い私だった。

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彼を好きになったのは、ないものねだりだと思う。
自分の好きなものをとことん追求する、人と自分を比べて自分にないものをねだるのではなく、自分が持っているものを大事にする。
自由で、自信に満ち溢れて、自分のことをよくわかっている。人生を楽しんでいる感じ。
多少の色眼鏡は入っているだろうが、私から見た彼はそんな彼で。
学歴を重視する人に囲まれている私とは、普段交わることのない世界で生きている彼の話や趣味嗜好はとても新鮮で、刺激的で。
自分のタイプの男性とはかけ離れているのに、憧れと好きが止まらなかった。
そんな彼に自分を認めてほしい。彼が好きになる人は、どんな人なのだろう。

自分を認めることを彼に委ねて、自分に自信を持とうとしていたずるい私。
認めてほしい、彼よりも優位に立ちたい。
そんな私は余裕のあるクールな女を演じる。決して彼を求めていないふりをする。
彼のことが好きなはずなのに、彼を好きな自分は全く好きになれない。
自分の感情を素直に表現できない自分が苦しくて、そんな自分にも曖昧な関係にも疲れて嫌気がさした。

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彼の言動、態度は全部、自分の都合の良いように脳内で自動的に意訳される。
「次いつ会える?」と毎回彼からくるのは、彼が私を追いかけてる証拠。
「荷物を置いて行きなよ」という発言も外で手を繋ぐのも、もしかしてすでに付き合ってる証拠?
「僕といて幸せ?」「僕といて楽しい?」と聞いてくるのは、好きだからだよね?
私のためにご飯を作ってくれるし、私といたいからと予定を急遽変更するのは、それだけ彼が私といたいってことだよね?

私たちセフレじゃんって言うと、セフレじゃないよ、セフレ以上婚約者未満と言った彼。
セフレだと認識していたのに、変な期待を持たせるのがとても上手な彼だった。

恋愛も仕事も中途半端で、気づけばとても頑張っていた勉強にも手がつかなくなってて、気分転換に引越ししようにもいい物件も見つからない。
彼を好きになればなるほど、自分を嫌いになっていく。

そんな気持ちが彼に伝わったのか、週に2〜3回会っていた時と比べると会う頻度もだんだん減っているなと感じていた頃。既に3ヶ月が経っていた。
曖昧にはじまった関係だけど、曖昧に終わるのは性に合わないし、最後ぐらいはかっこいい自分でいたい。

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今すぐにでも終わらせてスッキリしたい衝動に駆られた私は、明日は会えないという彼に、突如ラインを送りつけた。

「私たちはセフレだと認識してたけど、好きになったからもう会うのやめる。荷物捨てといてくれていい。捨てるのが嫌なら、取りに行く」

彼からは、「誰のこと好きになったの?」だとか「僕のどこが好きなの?」だとか「来週いつ会える?」ときて、返事はないと思っていたのに、最後まで想像の斜め上を行く返しで私を惑わせる彼。

でも、彼が私をどう思っているかという発言はなかったし、「いつ会える?」というのも荷物を取りにくる日の調整だった。
あ、そっか。荷物捨てるのが嫌なら取りに行くと言ったのは私だった。荷物を捨てるのも嫌ってことなんだな。「しばらく東京にいない」と言うと、「どこに行くの?」と聞いてくる。
今、それ、関係ある?
終始空気の読めない彼の発言に、イライラと気持ちが冷めていくのを感じた。

もう最後だから変な抵抗をする必要もない。彼の指示通りに荷物を取りに行った。
行くと決めた時は強気だったのに、2週間ぶりに会う彼に緊張する私。
ドキドキしながらインターホンを押すと、満面の笑みで「いらっしゃーい!!」と私を迎えた彼。
明るい彼と裏腹に、どんな顔をしていいかわからない私は、玄関にも入らず「荷物は?」と一言。

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私の荷物を取りに行った彼の後ろ姿を見ながら、あぁ、あそこは私の荷物の定位置だったなとか、もうこの背中に抱きつくこともないんだなとか、数秒でよくもこんなに思いつくなというぐらい思い出に浸る。
彼から荷物を受け取ると、自分とのテンションの違いに気づいたのか、「上がっていかないの?」と聞いてくる彼。
負けてたまるか。

「うん、じゃあ」
と冷たい一言を投げつけ、エレベータに乗り込んだ。
彼の家をしばらく離れたところで、やっと彼の部屋を振り返る。

今の私、かっこいい。
最後に見た彼の姿より、自分の意志を貫いた自分を好きになっている私に気づいて、また一歩ずつ前に進んで生きていこうと思えた。