2023年の未来の私を知ったのは、2022年12月に入ってすぐだった。
未来の私はトイレから告げた。
妊娠検査薬に現れた鮮やかなブルーの線。
すなわち、陽性反応。
つまり、約9ヵ月後、私には母になる未来が待っているのだ。

頭がぼんやりとした。
確かに月のものは遅れ気味だったし、なんだか胃の調子が悪かった。
検査薬を使ったのは、なんとなくだった。
8月に結婚したばかりで、新婚ほやほやだったし、来年は新婚旅行に沖縄に行きたいね~とか、6月には小さな2人だけの結婚式を予定していた。

◎          ◎

未来の私は、人の親になるのだ。
私はまだ、人として成熟できていない。
甘ったれの人の子なのだ。
夫は私より10以上も年上で、中身も成熟した大人だ。頭もよくて、現代的な考え方もできる。
人の親として、父親は申し分ない。

おろおろしてるうちに、後に「悪阻」と呼ばれるものが私を襲う。
朝も昼も夜も、気持ち悪くて、私は吐き続けた。
吐くものがないと血や胃液まで吐く。
食欲はなく、あっというまに6キロ落ちた。
もともと普通やや細め体型だったが、よく食べるしよく動くのでむしろ健康的だったが、悪阻で痩せすぎに。
産婦人科の尿検査ではケトン体という体の餓死成分が尿にでているとかで、即点滴に。

しばらく点滴に通ったおかげで、子は順調に育っていた。
嬉しいとか、喜びとかを感じる暇なんてなかった。
仕事はずっと休んでいるし、毎日吐いてる。
ホルモンバランスが崩れているせいか、涙が止まらない夜もあった。
クリスマスもお正月もなく、毎年欠かさなかった帰省イベントもできず。
ただ毎日を寝て過ごす。
こんなんでいいのか、私よ……。
スマホの検索履歴には、「悪阻いつ終わる」「吐かなくなるのはいつ」「妊娠初期、悪阻」。
瞬く間にマタニティーワードで溢れた。

◎          ◎

役所で母子手帳の交付に行った際に簡単な面談があった。
「子供ができて嬉しかったですか?」
そう聞かれて、涙が溢れてしまった。
悪阻があまりにも辛すぎて、嬉しさなんて感じる余裕はなかったから。
でも、確かに内診で見る赤ちゃんは毎回大きくなっていて、見るたびに感動して涙が出てくる。
ちゃんと、嬉しかったのだ。
戸惑いはあったが、大好きな夫との子供が宿ってることに、育っていることに、私はちゃんと喜びも嬉しさも感じていたのだ。

4ヶ月が過ぎて、もうすぐ5ヶ月。
まだまだ悪阻はあるけど、生きてる証拠と思えるくらい、私は強くなった。
体重も少しずつだけど戻りつつある。
ちょっとだけ、下着が食い込むようになってきたので、いいかげんマタニティーウェアに買い替えなければ。
未来のことをあれこれ悩むと、気絶しそうになる。
だけど未来の私は今の私よりちょっぴり逞しい気がする。
強くて、逞しい。そして楽しいママになるのが未来の目標だ。
ママになる前に、私は1つ年を重ねる。
なんだか、年を重ねるのもそれだけで特別な気がしてくる。
これからはじまる未来の私のママ奮闘物語は、まだはじまったばかり。