私が子育て環境を変えるなら、つわりで夫婦共倒れ寸前まで追い込まれた経験を踏まえて、従来の産休・育休に加え新たに「つわり休暇」を実現させたい。
軽い風邪のような体調不良が続き、熱にうなされながらスマホを眺めていた日曜日。なんとなく生理日管理アプリを起動したら、生理が2週間も遅れていることに気づいた。期待か不安かよく分からないそわそわした気持ちを抱えたまま、ドラッグストアで妊娠検査薬を購入した。
帰宅してすぐにトイレへ走り、うっすら浮かぶ陽性の線を見た瞬間、涙がどばどば溢れてきた。
そのままリビングのソファで寝転ぶ夫に検査薬を見せると、今まで見たことのないようなくしゃくしゃの笑顔で何度も頷きながら拍手してくれた。お祝いしようと二人で宅配ピザを注文し、完全に浮かれた気分のままシーザーサラダとポテトとフライドチキンまでつけて、ブドウジュースで乾杯した。これが産前最後の楽しい食事だった。
玄関先で動けなくなった私。気づけば夫に病院へ運ばれていた
翌朝月曜日、少し気持ち悪いなと思ったらみるみる全身が酷い倦怠感に包まれた。昨夜の食べ過ぎが原因かと思ったが、翌日も悪化する一方で、水曜日には嘔吐が止まらなくなり、空っぽの胃からは血ばかり沸き上がってきた。
会社のトイレで血を吐いていたら視界が真っ白になり、さすがにまずいと感じたが、「まだ安定期でもないのに会社に妊娠を告げるわけにもいかないし、産休までまだ遠い今なんと言って休めばいいのだろう」と悩んだ。
うまく頭が回らず、とりあえず上司に腹痛と伝えてなんとか早退の許可をもらい、タクシーで帰宅した。玄関で完全に動けなくなった私は、気づけば夫に病院へ運ばれていた。そこで告げられたのは、「重度妊娠悪阻」という聞き慣れない病名だった。
よく漫画やテレビドラマで表現されるような、一瞬だけ「ウッ!」となるつわりは、ごく一部だ。妊娠したら出産までの約10ヶ月間は24時間、全身にありとあらゆる不調が襲いかかる。軽い人もいるが、どうやら私は重い人らしい。
自力で起き上がることさえままならない私は当然、出勤もできなかった。
突然長期間休むことになり、クビを覚悟していたので産休まで休んでいいと上司から伝えられた時は心の底から安堵した。
会社の休暇手続きが大きな負担に。夫も会社を休むことができたなら
しかし、条件として毎月ひと月分の休暇手続きが必須となり、それが寝たきりの私と激務の夫という我が家においては負担が大きかった。
毎月バスで病院へ通い医師に診断書を作ってもらい、封筒と切手と諸々の書類を準備して、会社へ郵送し処理してもらうことで手続きが完了する。完了の連絡を貰うと、また次の月の手続きが始まる。
強い吐き気と倦怠感でベッドから起き上がることもできず、でも会社の手続きはどんどん増えて待ってくれず、地獄とはこのことかと思った。
夫は毎日朝6時から深夜0時まで働き、帰宅後に料理掃除洗濯等の全ての家事をして、吐瀉物まみれの私の体を拭いたり食べ物を食べさせたり看病をして、そのまま朝日と共に出勤していた。そこに私をひきずってのバス通院と手続き関連の一式を追加され、限界を越えていただろう。
普段温厚な夫が病院受付の些細なミスに激昂し、驚いて顔を見ると、眉間に信じられないほど深く皺が刻まれ、目の下には濃いクマが貼り付いていた。久しぶりにちゃんと見た夫はあまりにもぼろぼろにやつれていて、胸が張り裂けそうになった。
(これでは共倒れ寸前だ。毎月の手続きではなく産休のように「つわり休暇」があれば、私だけでなく夫もつわりの看病で仕事を休むことができれば、こんな酷いことにはならなかったのに)
どうか我が家のような“つわり地獄”が、どの家庭にも起こりませんように
つわりは全くない人や軽く済む人がいる一方、点滴治療や入院する人もいて、家族のサポートが必要となる場合もある。私は1人目の妊娠だったが、子どもが2人目3人目だったらその分さらにサポートが必要になる。
「つわり休暇」を、病院で赤ちゃんの心拍確認ができた日から産前休暇までの間の必要なタイミングで任意で男女共にとれるようになれば、つわりが軽い人はそのまま仕事を続けられるし、つわりが重い人はきちんと休めるし、本人も家族も会社も病院も都度煩雑な手続きに追われずに済む。つわりに苦しむ家族を余裕をもって支えることができるし、共倒れになることもない。
どうか我が家のような“つわり地獄”がもうどの家庭にも起こらないよう、「つわり休暇」によって余裕をもって家族と協力し合い、温もり溢れる環境で赤ちゃんを迎え入れることができる世界を実現させたい。