昨今は、「好き」を「推し」と表すことが多い。
ちなみに私にも、推しがいる。はっきりとした時期は曖昧ではあるものの、おおよそ2020年の夏〜秋頃から推し始めた。とある7人組のアイドルグループだ。当時はまだCDデビュー前だった。
たまたま観ていたテレビドラマにメンバー全員が出演していたのが、興味を持ち始めたきっかけだった。
彼らのグループ名で検索をかけてみるも、デビュー前だからか、公式のミュージックビデオはYouTubeにまだ1本も上がっていなかった。
ただミュージックビデオはなかったものの、ライブ映像はいくつかアップされていた。
同じ事務所の先輩グループと共に出演していたとあるライブのダイジェスト映像。これを観て、度肝を抜かれた。こちらも今風の言い方で表すのであれば、「沼落ち」してしまったのだった。
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そこにいるだけで、光の粒をきらきらと振り撒いているような圧倒的輝き。その色合いは7人7様。
「個」に目を向けても「輪」に目を向けても魅了される。どの角度から見ても隙がない。
照らすような明るさ、陰りのある大人の深み、表現の幅も想像以上に広い。
とんでもないグループがいるものだ、と戦慄した。
沼に嵌まってから約1年後、念願のデビューが決まった。
ライブ中、それは本人達にも一切知らされずに突然発表された。スクリーンに映し出されたサプライズ演出に目を丸くし、泣き崩れる彼らの姿を見ていたら、画面越しであっても思わずこちらの目も潤んだ。その時の様子は、YouTubeで生配信されていた。
それからというもの、公式SNSが開設されたりテレビ番組への出演が増えたりと、彼らを目にする機会はどんどん多くなっていった。デビュー発表日には、公式ファンクラブの発足もアナウンスされた。
ただ、あれから約1年半が経過したものの、実は私は未だファンクラブに入会していない。とはいえ、繰り返すようだが今でも変わらず推し続けている。今日も夜ごはんを食べた後は、リビングでくつろぎながらライブ映像にたっぷり浸っていた。
「どうしてファンクラブに入らないの?」
よく、不思議そうな顔で夫に聞かれる。入会金は1,000円、年会費は4,000円。決して高い金額ではない。入ろうと思えば確かにいつでも入れる。
でも、もう1人の私が耳元で囁き続けている。
私にしか聞こえない声で、「まだだよね、今じゃないよね」と。
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私は、ファンクラブに入ることを1つの「目標」として掲げている。だから目標にするほどの金額じゃ……と夫には何度も言われる。言いたいことはわかる。わかるけれども、金額云々の話じゃないのだ。
正確に言うならば、目標よりも「ご褒美」に近いかもしれない。
フリーランス1年目。収入はというとまだまだ安定とは程遠い。会社員時代は夫婦半々で生活費を負担し合っていたけれど、今やその割合も夫に大きく傾いてしまっている。
そう上手くはいかないと頭では分かっていたものの、乱高下が激しいせいでなかなか残高が増えない預金通帳の数字には何度もため息をつかされた。
お金お金とそればかりに囚われたくはないけれど、やっぱりいずれは収入を安定させたいというのが本望だ。
「私はフリーランスとしてやっていけている、大丈夫だ」と自分に対して思えるようになって初めて、今はまだない自信も湧いてくるような気がする。
自己肯定感を安定して保てる自分に脱皮できたら、「よく頑張ったね」と一種のご褒美として、推しのファンクラブに入りたいと思っている。
「月収◯万円以上」だとか「年内には」だとか、そういった明確な指標は定めていない。
「私は大丈夫」という自信は、数字で測れるものではないような気がするからだ。
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いつになるかは、正直分からない。
でも、「いつかこうなれたらいいな」が1つでもあるだけで、未来に対してほんのりと彩りが添えられる。それは、些細なことでもいいのだ。
推しを画面越しで応援しながら、「いつかファンクラブに入って、そしていつか夫婦ふたりでライブに行きたいな」と私は夢見続けている。夢だけでも案外ワクワクするものだ。これがアイドルの力か、と思うと、尊いと同時に恐ろしさも感じる。
そう、例の沼には、気づいたら夫も引きずりこまれていた。夫婦揃ってズブズブに浸かっている。男も女も関係なく虜にしてしまうなんて、やはり彼らは恐ろしい。
私は緑色、夫は橙色にペンライトを光らせながら、あの魔法を生で体感してみたい。
そんな夢を追いかけて、私は今日も地道に文章を書き続けていく。