12年。頭の中ではまるで昨日のことのように覚えている時間が、文字に起こせば長い長い月日となっていた。それでも、テレビの向こうのキラキラと輝くものに目を奪われたあの日のことを、鮮明に覚えている。
そして今、形を変えて、私の目の前にはあの日のキラキラが映っている。
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2011年1月。始まりは実に唐突であった。新年の正月特番が続く中、朝のニュース番組だけは通常通りの放送に切り替わった頃だった。いつものように朝食を食べながらニュースを見ていた私は、とある映像に目を奪われた。
「なんてキラキラしていてキレイなんだろう」
中学2年生にもなって、その程度の語彙しかないのかと思うところであるが、そんな単純な言葉が頭を占めるくらい、ステージの彼らは輝いていた。
走り回ったのだろう、髪には汗がまとわりつき、宣材写真のような瞬間的な美しさはなかったと思う。しかし、ステージ映えする輝く衣装とファンからの声援に全力で応える彼らの笑顔は、何よりも美しいものに見えた。
正直アイドルなんて、顔のいい人たちがキャーキャー言われてお金を稼いでいるものだと思っていた。顔とスタイルさえよければ、褒められ、そこに立っているだけでお金になる。神に選ばれた人たちの仕事だと信じてやまなかった。
でも、その映像はどうだ。まだ高校生くらいの自分とあまり年の変わらない人が、ステージで全力で歌って、踊って、多くの人を笑顔にさせている。「これがアイドルか」私の中でアイドル像が変化した瞬間だった。
そこから始まったのが私のアイドルオタクの歴史である。
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中学生の小娘には、到底高い金額を払うことはできなかったが、できる限りの投資をした。写真や企画が好きな雑誌を見つけ毎月購読したし、そのグループを推すにあたり、先輩後輩グループや、デビュー前の研究生たちの名前も自然に覚えていった。
私の推しはあまり目立つメンバーではなかったし、当時のテレビは露骨に人気メンバーを映す風習があった。某音楽番組ではたった一瞬しか抜かれない推しを見るために数十分前からテレビの前で正座待機をした。その一瞬でさえカメラを逃してしまう推しを見て少しガッカリしながら学校に向かうと、いわゆる先輩ファンである友人が声をかけてくれるのだ。
そう。友好関係も少し変わり、クラスメイト、部活の友人に加え『アイドルオタ友』ができていた。アイドルオタ友は母姉の影響でオタクになった言わば筋金入りのオタクで、新参者の私に、アイドルを推すために必要なあれこれを教えてくれた。新参者の私に彼女の存在は大きかったと思う。
メンバーカラーというものを意識したのもこの時で、いつの間にか自分の持ち物に推しのカラーのものが増えたし、プリクラで名前を書くときはいつも「推し色にして!」とお願いしたものだ。
しかし、終わりも唐突であった。進学した高校は部活と勉強に打ち込む人ばかり。当時はまだオタクや推しといった文化が根付いていなかったことも大きかっただろう。国民的アイドルのオタクを公言する人はいても、名前が一定知られているようなグループのオタクは多くなかった。
クラスでようやく見つけた数少ないアイドルオタクと話すことはあっても、推しているグループが違うため、そこまで盛り上がることもできなかった。そうしているうちに、私自身も部活漬けの毎日となり、公式サイトのチェック回数が減り、テレビを追いかける時間が減り、雑誌を買わなくなっていった。
こうして私の1回目のアイドルオタクはたった1年と3か月で幕を閉じたのであった。
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さて、時は2021年になる。社会人になった私だが、感染症の流行、自宅勤務、規制の続く毎日。正直ウンザリしていたし、あまり毎日に希望も持てない、憂鬱な日々を過ごしていた。もともとやりたかった仕事は体調を崩して辞めざるを得なかったし、社会に出て自分がいかに井の中の蛙であったのかを痛感していた。
ベッドの上で動画を見漁る変わり映えのない生活の中で、おすすめにふと上がった動画。あの瞬間がまたやってきたのだ。
当時推していたのとは違うグループ。年齢も人数も違う。それでも、そこにあったのはあの時と同じキラキラだった。
そのグループの存在はなんとなく知っていた。というのも、当時見ていた雑誌の中にいた研究生。その数名がそのグループのメンバーになっていた。
その中には、私と同級生のメンバーもいた。
こんなことを私が言うのは失礼かもしれないが、決して順風満帆ではなかったと思う。同い年の人間が、大学を卒業して社会に出れる年齢まで、アイドルの研究生として取り組む。決して簡単なことではないし、それまでにたくさんの葛藤があったのだと思う。
そこまでひとつのものに精一杯取り組めるのだから、きっと他の道を選んでも大成したであろう。それでもアイドルのデビューという夢を選び、努力を続けてきた。その苦労は決して私が理解することはできないし、もし感情を共有できるのであればきっと私はそれを受け取った瞬間に倒れてしまうだろう。
そんな苦難を乗り越えたであろう、彼が私の目の前にいる。その事実がどうしようもなく嬉しく、応援する理由には十分であった。
こうして私のアイドルオタク第2章が幕を開けたのである。
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そしてそれからさらに数ヶ月。彼らのCDデビューが決まった。
デビューに向けてテレビや雑誌の露出は増えたし、SNSや動画での発信も増えた。情報の多い時代だ。全てを追うことはできていないが、私の生活に彼らの存在は欠かすことができなくなっている。
あの頃はアイドルに対して『キラキラ』だけを求めていた。しかし、今は苦労をしてきたであろうバックボーンやさまざまな仕事をしている彼らの頑張りを想像して、それを含めた彼らを応援したいと思っている。
以前とは異なる推したい理由。だが彼らの存在が、今の私の生活を支えていると言っても過言ではない。
世の中では中学2年生、14歳の時にハマっていたものは繰り返す、なんて迷信があるらしい。
そんなはず、と言いかけて、こっそり胸の中に飲み込んだ。そして「ただいま」と昔の私に呼びかけることにしよう。