私はあるアイドルグループのファンだ。
彼らは現在、活動休止中だ。いつ活動再開するのか、このまま解散してしまうのかも不明だ。私は、彼らがファンに与えてくれた「幸せな空間や気持ち」を忘れたくない。

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彼らの音楽との出会いは、小学校高学年の頃だ。当時、母と毎週リアルタイムで観ていた、テレビドラマの主題歌を、彼らが担当していた。
数年後、母は知人から、偶然にも彼らのCDを勧められて聴き始めた。「あのアイドルの、あのドラマの主題歌か」と腑に落ちた母は、次第に興味を持ち始めた。

当時、彼らはデビュー10周年前後だった。グループでのドーム公演の開催や、ソロでの活躍も顕著な時期だった。アイドルグループによくある「結成◯年。デビュー◯周年」という、メモリアルイヤーに突入した時には、既に彼らは名実共に「国民的」になっていた。
テレビを点けると、メンバーの誰かは出演している状況の中、母はあるドラマを鑑賞した。主人公を、グループのリーダーが演じていた。主題歌は、リーダーがソロで歌っていた。
伸びやかな声に魅了され、母はその日から、リーダーを本格的に推すことになった。

母は、そのアイドルグループのファンクラブに入会した。入会した年に早速当選し、野外のスタジアム公演を、一緒に観に行った。
メインステージから登場した彼らを見て、「本物だ!実在するんだ」と感動し、自然と涙が溢れた。彼らが発案した、透明のステージの上に乗って移動しながらパフォーマンスをする「ムービングステージ」などを駆使し、メインステージから離れているファンの近くにも来てくれた。ライブの演出担当のメンバーが「1番上の、1番遠い席のファンまで楽しめるライブ」を心掛けてくれたからだ。
芸能人である彼らと、同じ空間にいて、夢のような時間を共有できたことは、この上ない幸せだった。

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以降、私達親子は、彼らを熱心に応援した。だが、彼らの人気は爆発的であり、年々、ライブチケットが入手しづらくなった。当選確率を上げるため、私もファンクラブに入会した。
彼らは毎年ドームツアーを行い、その度にチケットを申し込んだが、2、3年に1度しか当選しなかった。チケットが取れた場合、金銭や時間の面で負担が掛かったが、彼らのビジネスに貢献でき、幸せを与えてもらっているお返しだと考えた。

突如、彼らは活動休止を発表した。とてもショックだった。だが、メンバーが沢山話し合った上での結論なので、最後までついていきたい、と感じた。
活動休止までの期間、彼らは最後まで「攻めの姿勢と、ファンを喜ばせること」を第一に考えて動いた。中でも、今まで事務所全体で使用していなかった、InstagramなどのSNSの解禁は、思い切った行動だと感じた。
実現するには、幾つもの壁があったに違いない。ファンは、タレントを「より近く」感じるようになった。

活動休止前最後のライブツアーでは、幸運にも、東京ドームのアリーナ席に座ることができた。奇跡的に、ライブ終盤の演出である銀テープを、記念に拾って帰ることもできた。
その後はコロナ禍になり、無観客ライブを開催し、ファンは自宅で配信を視聴する形となった。ファン全員が同じ条件の下でライブを楽しむ、「ライブの新しい形」に触れたことは、貴重な経験となった。

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彼らが活動休止をしてから、数年が経つ。彼ら個人の活躍も目覚ましく、多忙を極めた日々から多少解放されて、自由な時間が持てるようになったことは、ファンとしても良かったと思う。彼らにも、彼らの人生がある。私達ファンを幸せにしてくれた分、彼らには幸せを掴み、スローペース且つ、充実した生活を送ってもらいたい。

一方で、充電期間を経て、彼らが再び集結して、無理のないペースで、いつか同じ夢を見る機会があればいいな、と淡い期待も抱いている。
数えきれない程の幸せを、ありがとう。
共に胸に刻んだ思い出は、忘れたくないし、忘れないよ。