年齢はマスクの下に出る。目元の年齢はメイクで隠れても、頬の肌質やたるみ、口元に確かに感じる年齢が私からマスクを手放させてくれない。

3月にマスクの着用が任意化されるらしい。そのニュースを聞いた時、一番に出たのは「嫌だな」の一言だった。

マスク自体が好きかと言えばそんなことはない。毎日マスクを消耗するのはしがない社会人の給与には地味に打撃になるし、顎下に定期的にできるニキビはどう考えてもマスクのせいだ。可愛いリップを手に入れても、どんなにメイクが上手くいった日にもマスクをしなければならない。マスクをすることが当たり前になっても、心のどこかで気分の下がりを感じざるを得なかった。

そんなデメリットを感じても、マスクは外したくない。そう思うのは、私がマスクで感じた勘違いが大きいと思う。

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2020年。マスク生活になってから私は職場を変えた。面接からマスクをしていたため、初めて会う同僚や上司たちの顔は半分しかわからなかった。
当時は歓迎会などもなく、食事をするのもデスクで各々。そうなると勝手にマスクの下を補完し相手の顔を想像するほかなかった。

そんな中、とある先輩に「職場の皆は何歳くらいに見える?」と聞かれた。前の職場の年齢層が若かったこともあり、その時の上司の年齢なども考慮して、3人の男性の先輩をそれぞれ20代後半から30代前半と答えたところ、大層驚かれた。その後、全員が40代と聞いて、反対に私が大変驚いたのは今となっては面白おかしい話である。
しかし、本当に20代だと思えるほど、上司たちの年齢はマスクの上ではわからなかった。

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ある日、マスクを外している上司の顔を見る機会があった。
すぐにマスクを着けられたから一瞬しか見れなかったものの、ほうれい線や頬のたるみは確かに40代相応のものであった。私の想像がいかにポジティブな変換をしていたのかを実感した。

マスク美人と言った言葉があるように、人間は潜在的にマスクの下を良い方向に想定するらしい。これまではマスクをつける生活の前に出会った人ばかりであったから、マスクの下を見てもギャップがなかったが、初めて出会った人はそうはいかない。つまり私は顔の上の部分から想定する、一番綺麗な顔を勝手に想像していたのだ。

この経験をもとに、一つの仮説が生まれる。
私が想像したように、周りも私の顔を同様に勝手に想像しているのではないか。

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昨年夏頃に上京し、また周辺環境がガラッと変わった。もちろん今の同僚たちも、私の顔をきちんとは知らない。自分では毎日鏡を見るから気づかないものの、着実に年齢的な変化が出ているであろうこの顔を全て見せるのは些か抵抗がある。

気にしすぎ、周囲の反応なんてそんなに大きくない、そう言う人もいるだろう。一方で自分のように衝撃的な経験をしたり、勝手に想像をしていたり。そういった人も決して少なくはないだろう。誰とはわからないけれど、その可能性がある限り、私はマスクを外すことに躊躇いを隠せないのだ。

きっと同じようにマスクを外せない人もいるだろう。反対に次の夏くらいには、外している人の方が多くなるのかもしれない。周囲の環境に適応できるように、まずは時間を決めて少しずつ、マスクを外してみる必要があるかもしれない。