マスクがある生活から離れたくない。
「早く息苦しいマスクから解放されたい」と大勢の人が思っている中では、逆行する意見かもしれない。
マスクをしていると、クマが隠れるので、疲れて見えないし正直若く見える。
他にも、朝に時間がないときには、顔の上半分だけ化粧をすれば出かけられる。
この便利さから抜け出せない。

つい先日少しショッキングなことがあった。
少し離れた席に、背中合わせで座ってる人から「そんなお顔だったんですね」と言われて、戸惑った。
どんな顔だと思っていたのか気になるが、想像と違った顔をしていたということに複雑な気持ちだった。
マスクを外した後にも沢山の人を驚かせるのかなと思った。これまでは普通のことだったけれども、もう戻れないなと思っている理由の一つだ。

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スッピンからの脱却という観点では、私は化粧にかける時間は、短い方だと思っている。
大学時代の友人には、大学の四年間をノーメイクで過ごした猛者もいて、尊敬しているのだが、別の美人の友人と旅行に行った時にメイクに30分以上時間をかけていて、かわいいを作る大変さに脱帽した。

私は、あまりメイクの腕がないので、自然とナチュラルメイクになってしまうのだが、メイクをするとしないでは、パーツがはっきりするし、顔色も明るくなる。
未だに完全ノーメイクで会社には行ったことがないため、素顔の自分を晒すことに抵抗がある。

子供がいる女性の先輩はメイクをする時間がないと言って、いつも日焼け止めで済ましているらしいが、肌にハリがあって子供がいるようには見えない年齢に見える。
メイクをしなくても美しい人はいるのだなあと、先輩のハツラツとした笑顔を見るたびに羨ましいと思ってしまう。
残業終わりのメイクが崩れた顔など、もしかするとすっぴんより疲れて見える可能性があるが、化粧をしているという状態と、何もしていないという状態では気持ちには雲泥の差がある。

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会社ではきちんとした格好をしていても帰れば、上下グレーのスウェットに着替える。
化粧を落とし、コンタクトも外し、度の強い眼鏡をかける。
23歳の時であったが、夜ご飯にアジの干物を食べていて、ふと窓ガラスの方を見ると明らかに干物女と呼べるボサボサの自分が写っていた。
彼氏もおらず特定の趣味を持たず、仕事が忙しく家と仕事会社の往復をしている日が増え、日常生活が枯れた女が写っていた。

それから四年が経ったが、グレーのスウェットがピンクのモコモコパジャマに変わったぐらいで、彼氏もおらず在宅勤務になったことでたぶん仕事の時間は増えた。
ビデオ通話の会議の時は最低限身なりを整えるが、それ以外の時は相も変わらず度のきついメガネをかけて髪の毛を歪めている。
干物女は卒業できていないと思う。

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年度が変わる頃には、マスクのない生活に戻る可能性がある。
個人的にはデメリットよりもメリットの方が多いので、マスクありの生活を続けたいのであるが、逆に周りの人に不快な思いをさせてしまうのではないかと思ったり、周りの人が外しているのであればマスクを外さなければいけないのかなとぼんやりと思っている。

時短のために口紅を塗る工程をスキップする生活は、あとどれぐらい続けられるのだろうか。
マスクが隠していた口周りの表情筋を、今から鍛えておく必要がありそうなので、マスクの下で笑顔をキープする練習を始めたい。