前も話したけど、ずっと言ってるけど、私、マスクを外したくないんだよね。てか、コロナの前から思ってる。
美人とかかわいいとかって言葉は私のためのものじゃないってことは、何となく気づいてた。子どもの頃からのいろんな経験とか、考察から、当たり前みたいに。

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大学生になってバイトを始めた。ファミレスチェーンのキッチンのバイト。ホールの子はもちろん美男美女ばっかりで、その中で黙々と料理を作る。キッチンはホールよりも1段下がったところにあって、いつもみんなを見上げながら話してた。マスクをしながら。

マスクをしてたら、目を合わせて話すのが怖くない。あの子ともあの子とも対等でいられる。気がする。その間だけ、人間に容姿なんてものが存在しないみたいに感じられる。話の内容だけに集中できる。あ、バイト中か。ほんとは仕事に集中しなきゃいけないんだけど。

バイト上がり。いつも休憩室でみんなと駄弁る。みんな制服の帽子で前髪がぺちゃんこで、「前髪やば(笑)」なんて言いながらお菓子とか食べて。ラッキーな日は先輩とか店長が買ってくれたアイス。

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初めはこの違和感がなんなのか気づいてなかった。バイト中は共通の話題があるから話しやすいのかな、とかそんなふうに思ってた。けどコロナの時代になってから気づいた。あ、私はマスクをしてる方が人と話せるんだって。

気づいてからはほんとに生きやすくなった。マスクしてるから大丈夫って思えばアパレル店員さんと気軽に話せる。ダイエットにも力が入った。スタイルさえ磨けば自信が持てる。

マスクで顔が隠れているから、容姿コンプレックスも中和される。もちろんメイクは好きだから毎日するけど、見られるためのメイクじゃなくて、大丈夫って思うためのおまじないみたいなもの。
おまじないをして、その上からマスクをつけて、やっと他の人と同じレベルになれる。コンプレックスの水槽の中で、唯一呼吸ができる方法。

マスク時代に残された時間はきっと少ない。テレビから、ネットから、道行く人々の様子から、じわじわと終わりが近づいて来るのがわかる。
丸腰で不安にならない人たちのなんと生きやすそうなこと。自己肯定感という名の見えないマスクを、私だってつけてみたいよ。

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マスクの有無のせいにしてるけど、結局のところは自分が変われば世界も変わるわけで。
他人と自分の容姿以外に目を向けられる眼鏡とか、不意に向けられたカメラにも笑顔でピースができるようになる香水とか、相手の目を見て話せるマスカラとか、見えないけどみんな自分で魔法かけてるんだよね、そうよね。

ちょっと心の準備をさせてもらってもいいかな。春の雪解けみたいにゆっくりでもいいかな。かわいいかもって思ってもいいかな。顔上げて話してもいいかな。目合わせても変じゃないかな。あの子みたいに自撮りしてみてもいいかな。素顔の私を、愛してみてもいいかな。許可とかいらないよね、そうよね。

マスク時代が終わる前に、自己愛トレーニングしなきゃな。マスクと一緒に、暗い私も取らなきゃな。盛れるマスクより似合うリップとか探しに行っちゃおうかな。