拝啓 二十八のあなたへ

先日はお手紙ありがとうございました。あなたからのお手紙(エッセイ「モテ期到来前の14歳の君へ、未来から『反動形成』という言葉を贈る」)、何度も何度も読ませて頂きました。
こんなに長いお手紙を頂くのは久しぶりのことでしたし、そして14歳も年の離れた相手から、何より未来の私からなんて初めてですから。こうして返信を書くのも少し緊張しているくらいです。大胆不敵に見えて意外と小心者で緊張しいな性格は、14年後も変わっていないのでしょうか。

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あなたのお手紙を読んで頭に疑問ばかりが生まれました。
154センチにしか伸びず、65キロって何事ですか。精神障害者になったってどういうことですか。幼馴染A君と結ばれなかったばかりか、23歳まで彼氏もできず、なおかつ28歳の大の大人なのに社会人まだ2年目なのですか。そして体調崩して休職中って、あなた大丈夫なのですか?
過去の私に手紙を書いている場合なのでしょうか。情けない。正直そう思いました。

そんな疑問を晴らすために、エッセイ49作を全て読ませて頂きました。
今の私の努力が実って志望高校に合格できたこと。そこではまさに青春を満喫したこと。19歳で精神障害を発症し、引きこもりやニートを経てからなんとか大学生になったこと。そして夢であったジャーナリストになれなかったこと。しかし、今の職業にやりがいを感じ始めていること。新しい夢である、エッセイストとしてエッセイ本を出版したいこと。その他感じたこと考えたこと全てを、ありのままに綴っていましたね。

こうして、過去の私が未来の私の全てを知ることは、良くないことなのかもしれません。未来の自分の姿を知ると、現時点での努力する気概を失いかねませんから。特に精神障害者になったこと、今こんなにもなりたいジャーナリストの夢を諦めたことに、私は衝撃を受けました。
でもあなたはあなたで一生懸命生きた結果がそうなのだから。そしてその先で新しい夢を見つけたのだから。私はそれでいいと思います。

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さて、あなたが「反動形成」という言葉を私に贈ってくれたように、過去の私も未来のあなたへ贈りたい言葉があります。きっと今回の「未来の私は」というテーマにぴったりだと思ったからです。
それは「頑張るときはいつも今」という言葉です。
そう、中学の新任の理科の先生がいつも口癖のように唱えている、あの言葉です。

「未来」がテーマなのに「今」とはどういうことなのか。そう疑問に思われたかもしれません。じゃあそこで一つ質問したいことがあります。
「未来」っていつからが「未来」なのでしょうか。
「今」は分かりますね。現時点のことです。じゃあ「未来」は?

「未来」と聞くと、それこそ14年後とか、例えば1年後とか、どこか今から離れた遠い先をイメージしてしまいます。でも、現時点から離れた時間という意味で、1秒先、2秒先も「未来は未来」なのです。14歳の手紙を書いている今の私と、1秒先の未来、そして28歳の未来のあなたは、1本の長い線で結ばれているのです。
だから、こうも言えるのではないでしょうか。「今は限りなく未来である」と。
だから「いつか遠い先の未来」という何も分からない先へ努力するのではなく、今が未来なのだから、頑張るときはいつも今なのだ、あの先生はそう言いたいのではないでしょうか。

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そういえばこの間、姉も面白い話を聞かせてくれました。いつもの夕食後の紅茶片手の雑談の時間です。
「まよ、1日に86,400円もらえたら何に使う?」と姉は言うのです。
「え何、その大金!くれるの?!」と興奮して食いつく私に、姉は苦笑しながら返します。
「例えばの話だよ。86,400円毎日口座に振り込まれて、でもそのお金は毎日24時になると使い切れなかった分も含めて口座から全部消えちゃうの。だから貯金はできない。で、次の日また86,400円振り込まれる。そしたらどう使う?」
「えーそりゃ毎日全部使い切るなあ。だって消えちゃうんでしょ。全部使い切らないともったいないよ」
私の返事を聞いた姉の目が、その答えを待っていたかのようにキラリと光ります。
「実はね、86,400って、1日の秒数なの。1日は86,400秒。そして貯めておくことができないから、1日1日使い切って生きなきゃね」
そう言って姉は紅茶をすすります。カッコいいことを教えてくれたなあ、と私は思ったものです。

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きっと一生懸命生きている未来のあなたにこれを言うのは恐れ多いのですが、14歳の背伸びして敬語を使っている私からぜひ言わせてください。
あなたはお手紙で反動形成について教えてくれました。それは、「抑圧された欲求と反対傾向の態度が強調して示されること」、つまり「ツンデレ」だと。素直になれず好きな人をからかってしまう私たちは臆病で子どもなのだと。

では未来のあなたは、自分の好きなことに素直になれていますか。欲しいもの・叶えたいことがあるのに「今の私には無理だ」とか「年齢が」とか「今でも十分幸せだ」というおさまりの良い、生暖かい言葉で逃げていませんか。
アドラー心理学では「必要なのは、才能ではなく、勇気である」と言われるようです。あなたは私に反動形成について教えてくれましたが、あなた自身が勇気を出せず、自分の夢に対して反動形成をとっていませんか。変に聞き分けの良い大人になろうとしていませんか。
49作のエッセイを読んで、私はそのことを心配し、伝えるべく筆を執ったのです。

言葉を使うことが人より少々長けていて、なおかつそのことに対して自信のあるあなただからこそ、自分の本心を誤魔化して綺麗な言葉でラッピングしていないかと。
もしそうならば、将来必ず後悔します。
ならば未来を今、やり直してください。なぜなら「今は限りなく未来」で、あなたに与えられた86,400秒は今しか使うことができないのですから。

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あなたからのお手紙、そして49作のエッセイの載ったかがみよかがみのURL。本当にありがたかったです。でも、もう削除してしまいたいと思います。一言一句暗唱できるくらい読み込みましたし、なによりこれから先の未来は、私だけのものだからです。たとえ同じゴールにたどり着いても、その道中の景色は私だけのものですから。どうか、お元気で。
敬具

追伸
お手紙でご指摘頂きました体育着の脇下のブリーチをしたら、更にモテるようになりました。今の私には手に余るので、未来の私に回して有効活用してほしいです。