拝啓 十四の君へ
おーい、君!君だよ、君。
今日も、紫と黄色のだっさいジャージを腰パンで着て、部活のあと校則では許されていない買い食いのカロリーメイトをお供に、親友とたまり場で馬鹿な話とか好きな人の話で盛り上がりながら、少しずつ近づいてくる受験に焦りを抱えている君だよ。
好きな人は小学校からの幼馴染A君。カロリーメイトはチョコ味ではなくチーズ味派。どうしても行きたい国際科のある志望校のために、英語をもっと勉強しなければ、と思っているんだよね。
なぜそんなこと知っているかって?君の日記をこっそり読んだからじゃないよ。それは、僕は君で、君は僕だからなんだ。正確に言えば28歳の君さ。最近リリースされたアンジェラ・アキの「手紙~拝啓 十五の君へ~」に感動している頃だと思うけれど(いやあ、あれは本当に名曲だ)、相変わらずせっかちな僕は1年早い14歳の君に手紙を書くことにしたんだ。
君の2倍の年月生きてきたことになって丁度いいし、伝えたいことがあったからね。
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最初に謝っておく。28歳の僕を見て、きっと唖然としているだろうからね。
背が低くてデブでごめん。今、君は151センチくらいだと思うけど、あれから3センチしか伸びないんだ。隣にいる親友の一人のモデル体型にこっそり憧れていた君にとっては残念だろうけれど、恨むなら、遺伝子と夜更かしして本を読みまくっている今の自分を恨むんだな。
それに体重も65キロもある。ちびデブってやつだ。精神障害者になった僕は、薬の副作用で20キロほど太ったんだ。
さらに、24歳までにA君と結婚することをこっそり妄想している君にとっては辛いかもしれないが、28歳の今の僕は結婚していないどころか、28歳なのにまだ社会人2年目だし、というか体調を崩して休職中だ。そしてA君には結婚するどころか、数か月後勇気を出して告白した君は、振られてしまうんだ。散々な未来だね。
頭にはてなばかり浮かんで、色々知りたい・聞きたいところだろうけれど、質問はよしてくれ。話せば長いし、この手紙が掲載されるかがみよかがみのエッセイ字数上限は、2,500字なんだ。
代わりと言ってはなんだが、僕が書いた前のエッセイたちを読んでくれ。いっぱい詳しく書いたから説明の無駄が省けるし、PV数も稼げるから一石二鳥だからね。かがみよかがみではアクセスランキングがあって、そのランキングの上位に来ると内心狂喜乱舞する僕の目立ちたがり屋さは、今の君と全く変わっていないんだよ。
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さて、なんで15歳ではなく、14歳の君に手紙を宛てているのか。それはね、今君は気付いているかどうかわからないけれど、モテ期を迎えているからなんだ。
え、そんなことないって?今日も男子に、ゴリラだの、ナイアガラだの(脇汗が凄すぎて黄色くなった体育着、が由来だったね。「女の子らしく」って言葉は苦手だけれど、最低限の身だしなみは大切だと今の僕は思うよ)、おならぶっこき女だの、短足大根脚女だの、ブスだの整形しろだの散々言われたもんね。確かにそう思うのも無理はないよな。
でもね、君はびっくりするだろうけれど、その散々言ってきた男子の中には、君にその後告白してくるやつもいれば、「あの頃好きだった」と卒業式のときにいってくるやつもいる。君のことが好きって口の軽い女友達に告白した結果、学年中にばらされてしまうやつもいる。君が照れて告白する前に逃げてしまった、君に好意を抱いてくれていたやつもいれば、君が毎日女を捨てて(また嫌な表現だね)騒ぎまくっているのを見て、君ってこんなでなければもっと大モテするだろう、って分析してくれたやつもいるんだ。
でもこんなにモテているのに、君は結局彼氏ができない。くそ、もったいなさすぎる。寄越せ。今の僕ならもっと有効活用してやる。
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冗談はさておき。なんでこんなに君の現状認識と今の僕の認識がずれているんだろう。
「反動形成」って言葉、知っているかな?「反動形成」、今日は君にこの言葉を贈りたく、筆をとったんだ。
それなりに頭がよく勉強面でのプライドが高い君は、この言葉を知らないことが悔しくて、今辞書を引いているはずだ。そこにはこう説明があるだろう。
「反動形成…心理学で自我の防衛機制の一つ。抑圧された欲求と反対傾向の態度が強調して示されること」(出典:デジタル大辞泉)
高校の倫理の授業で習う内容だ。少し今の君には難しいかもしれないけれど、こう説明したらどうだろう。
君は今片思いしているA君に、当然好意を抱いてほしいし、もっと自分に注目して見てほしい。でも素直に好きとか可愛い子ぶれない君は、坊主の彼にいつも話しかけるとき、「おいっ、ハゲ!」って声かけてしまうね(君は本当に坊主のスポーツマンがタイプだった)。自分を好いてほしい好きな人に、ついちょっかいかけていじわるしてしまう、これは立派な「反動形成」という心理学の一種なんだ。心当たり、あったろう?そう、つまりは「ツンデレ」ってやつだ。
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君はこの言葉に、大学受験にむけた倫理の勉強のときに出会うんだ。そして雷に打たれたような衝撃を覚える。なぜなら、ブスだのゴリラだの言ってきたやつらから告白された謎がここで解けたからだ。そして自分自身も好きな人のことを「ハゲ」と呼びかけてしまった謎も。
あの不思議な現象は、倫理の分厚い教科書の中に答えがあった。勉強って面白いね。
最後に悲しいニュースと嬉しいニュースを一つずつ。14歳の君はこのモテ期が過ぎたあと、23歳になるまで彼氏ができない。毎日ブスだのゴリラだの言われて、A君にも振られて女の子として自信を失った君は、より「女を捨て」て笑いに走ってしまったからだ。
長いこと「反動形成」に囚われる。君とやつたちはどうしてこんなにも臆病で子どもだったんだろう。素直になれば、良かったのにね。
でも人間関係は恋愛だけじゃない。28歳の僕は、今君の横にいる親友と、今日も遊んできた。地元のいつものカラオケで、いつもの馬鹿話だ。16年も人とこうした関係を築ける。だから、大丈夫。いつか君にもきっと素直になれない反動形成ごと受け止めてくれる人が現れる。
じゃあな、そのときまで。あと体育着の脇下はブリーチしたほうがいいぜ。
敬具