孤独は、いつだって突然襲ってくる。あの頃の私はまだ、戦い方を知らなかった。

「この雪じゃ、どこにも行けないね」
20代後半、結婚し、旦那の転勤で東北地方にある町に居を構えた。

関西の都市部で生まれ育った。公共交通網が発達していて、田舎でしばしば聞かれる、自動車がないと移動できない生活とは縁遠かった。夏はレジャーを楽しむのにちょうどいい暑さで、冬は程よい雪が降るような、四季を味わえる気候。雪国の暮らしなんて、想像できなかった。
その町について、東北の中では比較的、雪が降らない土地だと、賃貸物件の案内担当者だった地元の女性から聞いていた。にもかかわらず、1年目の冬、異例の大寒波襲来で12月中旬から断続的に雪が降り、年の暮れには足首がすっぽり埋もれてしまうほど積もった。

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旦那と迎える最初の年末年始。県内の観光地や温泉を巡って、思い出に残るような時間を過ごしたい。ぼんやりと予定を立てていたのに。
連休初日の朝、窓の外に目をやると、吹雪で何も見えないほど真っ白な世界が広がっていた。地面の雪は溶けるどころか、分厚くなっている。ふたりとも雪道の運転には自信がないし、そもそも外出できる天候ではない。残念ながら、自宅で引きこもるほかなかった。

手が空くと、つい、スマートフォンに手が伸びる。学生時代の友達が集い、楽しんでいる様子がSNSに映し出された。地元に残っていれば、私もそこにいたのかな。家には、旦那がいる。ひとりじゃない。なのに、社会から切り離されたような気がした。

転勤族の旦那と一緒に生活する以上、移住は仕方のない選択だったし、私自身、環境を変えるのに抵抗はなかった。だけど、見知らぬ土地にいると、この類の孤独が時折、訪れる。
友達がいないわけではないし、今住む場所で新しい出会いもあった。だけど、仕事をして、結婚して、子どもができて……。社会人になってから、ついこの間まで隣にいたはずの友達が、どんどん遠い存在になっていく感覚は、年々強くなっている。
現代は、遠くにいてもつながれる道具があるし、連絡すればいいのだが、用があるわけでもない。何と切り出せばいいのか悩む。簡単に会えなくなった分、相手の状況が分からず、遠慮してしまうのも本音。物理的な距離は、そのスピードを加速させていた。

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冬の寒さからか、雪に自由を奪われたからか、この日は一層、何かに押しつぶされそうだった。
一方の旦那は、寝正月を堪能していた。「休みにゆっくりできるなんて、これほどの幸せはないね」。
15歳上の彼は、これまでに10回以上の転勤を経験している。孤独との向き合い方を知っているようだった。
誰もが、自分の人生に忙しい。どんなに仲が良かったとしても、ずっとはつながっていられない。好きな場所へ行ったり、好きなことをしたり。好きなものを食べたり……。私は、私の人生に集中するしかないのだ。

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結局、元旦は雪まみれになりながら近所の神社に初詣して、通販で奮発して購入したおせちを食べた。翌日は、普段の何倍もの時間をかけて近所の総合スーパーまで歩き、新春セールで鍋セットを格安で入手した。その年、食卓で最も大活躍した一品となった。

三が日の終わりには雪も解け、リア充で騒がしかったSNSも落ち着いていた。きっと、孤独とは、長い付き合いになるだろう。だけど、今、手にしている日常にある幸せをかみしめれば、きっと乗り越えられるはず。負けそうになったら、あの冬を思い出そうと思う。