裕福な家庭ではないながらも、大学進学を機に上京させてもらった私は、当時、破格の女子寮に住んでいた。
その女子寮に、高級なブランドの服や化粧品を身につける同期がおり、私は常々その子を心のうちでやっかんでいた。
彼女は、破格の女子寮に住まなくてもいいのではないかと思うくらい、多額の仕送りを貰っていたらしく、寮内でも他の寮生たちから「バイトしなくてもいいんじゃな〜い?」とうらやましがられていた。
彼女に対して、「顔はデカくて脚は太くて短いのに、あんな高価なものを身につけるなんて、不釣り合いで見苦しすぎる」なんて、要らんお世話の憎悪を、心のうちで沸々とたぎらせていた。

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同じ女子寮に私と仲のいいY先輩という人がいた。
彼女は、学生寮の風紀を乱す後輩に厳格な一面と、流行に敏感なオシャレさんでイマドキガールな一面を兼ね備えており、礼儀正しくしている私のことをよく可愛がってくれていた。
ある日、Y先輩と原宿のイマドキなカフェでお茶をしながら、冒頭で触れた同期へのひがみを聞いてもらっていた。

実家からの仕送りは充分とは言えず、そのほとんどは生活必需品や授業の教材費に消えていくので、服どころか化粧品なんてそもそも買えなかった私。
(余談だが、大学入学時、母にスキンケアの相談をしたのだが、「百均で買ったベビーオイルでも塗っておきなさい」と言われたことがあった。それが美容部員になったキッカケでもある)

「私、小さい時からお金に苦労してきたし。だからあんな風に豪遊して着飾る女、大っ嫌いなんですよね〜」
そう言った私に、Y先輩は間髪入れずにクールにこう諭した。
「リサは若いのに人生ハードモードを乗り越えてきてるのは分かる。けれど、あの子が着飾ることは、リサには関係なくない?あの子はあの子で、自分がいいと思ってやってることなんだし」

今思えば、Y先輩の発言は何ひとつ間違っていないド正論。
しかし、当時の私にとって、そのY先輩の「リサには関係なくない?」発言が胸の奥につっかえていたのだった。

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月日は流れ、20代後半になった私は、1着2万円を超えるワンピースを何食わぬ顔で着るようになっていた。
そして先日、誕生日プレゼントに、高級なヘアアイロンやアイシャドウ、香り高いハンドクリームやバスソルトを貰った私は、「高級品を身につけている=価値の高いオンナ」という自負が芽生え始めていた。
それらが入れられていた、シャネルやディオールを始めとした数々のショッパーバッグを部屋の一角に並べて惚れ惚れしていたのだが。
当時私がやっかんでいた同期の顔がチラついた。

彼女も今の私のように高級品で身を固めることで、自分のコンプレックスを隠し、プライドを守っていたのではないだろうかと。
そして、かつてやっかみの対象だった同期と、同じことをしている自分に気付いてハッとした。

私がやっかんでいた同期は、誰もが知る有名な大学に通う聡明な子であった。
けれども、私が心の奥底で皮肉を言っていた「顔はデカくて脚は太くて短い」というポイントは、彼女にとってコンプレックスだったに違いない。
彼女は努力で身につけた学歴にプラスして、高級品を身につけることが、「自分のプライドを守るための鉄壁」の役割をしていたのかもしれないと、今の自分に置き換えて思い返す。

私も努力して身につけたラジオでの話し手の仕事や、エッセイの書き手の仕事はあるが、そんな「自分のプライドを守るための鉄壁」が、2万円のワンピースや、高級なアイシャドウであることには違いなかった。

あの時にY先輩に一蹴されてしまった「リサには関係なくない?」発言。
月日を経た私にとって、私には充分に関係のあることとなった。
あの時の胸のつっかえは、未来の私の姿を不覚にも示唆していたのかもしれない。

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「隣の芝生は青い」もので、私は、また新たにやっかんでいる対象がいる。
それは、大した努力もせず、生まれながらにして健康な親やカネに恵まれて、今は旦那のカネでブランド品を買い漁り、好き放題している専業主婦。
私と真反対の世界線を生きているあの人だ。
今からでもいいから、私もその世界線に生まれたかったと常々思う。

Y先輩がこのエッセイを読んでいたら、「リサには関係なくない?」とまた言われてしまうだろう。
でも、未来の私にとって関係ない話になっているのかどうかは、今は分からない。
かつて同期をやっかんでいた私が、彼女が選んだ行動の深層心理が少なからず分かった今日この頃。
現在のこの胸のつっかえは、未来の私の姿を示唆していて、月日を経て分かることがまたあるかもしれない、なんて思う。
さて、未来の私に答え合わせをするのが楽しみだ。