突然の彼からの電話に不安と期待で震えた。
「別れてほしい」
心臓の奥でどくんと何かが鳴った。
彼は言った。
「君の何かが嫌になったわけではない。他に好きな人が出来た訳でも、浮気した訳でもない。ただ今の俺は君といるより、友達といる方が楽しいと思ってしまっている」
世の中の多くの人は、似たような理由で別れたことがあるのではないだろうか。「付き合う理由が無くなった」というような。
ありふれた理由なのに、ひどく心が痛んだ。涙が止まらなかった。
離れてく君の気持ちに気づけていたら、何か変わっていたのだろうか
「私をフるってことは、今後2度と、私に会えなくなってもいいっていう覚悟あってのことだよね?」
「うん」
泣いて、喚いて、すがった方が良かっただろうか。
ううん、受け入れるしかなかった。
あぁ、私が知らない間に、君の気持ちは離れてしまっていたんだね。
それなのに私は、フラれる直前、友達に馬鹿みたいに惚気てしまっていたよ。
君の着るロングコートがカッコいいから、2人で並んで歩くことを想像して私もロングコート買ったんだよ。
2人の楽しい思い出も、「好き」と言いあったことも、愛に身を任せて抱き合ったことも、2人の楽しい未来を描いて話したことも、こんな簡単に終わってしまうのか。
何も気づけなかった自分が悔しかった。
離れてく君の気持ちに気づけていたら、何か変わっていたのだろうか。友達と遊ばないでと束縛していたら、君は私だけを見ていてくれていただろうか。浮気だったら、この悲しみが怒りに変わって、全て君のせいにして楽になれただろうか。
そんなどうしようもないたらればを頭に巡らせていた。
車で彼を迎えに行き、公園の駐車場で別れてからの話をした
「付き合えて、幸せだった。ありがとう」
「付き合えて、幸せだった。ありがとう」
同じことを言ってハグをした。2人の気持ちは全然違うのに。
少しドライブをした。2人の思い出を話しながら。
くだらないことを言って笑い合った。
「私たち、本当に別れるんだよね?」
「うん、なんかその方がエモいじゃん。」
楽観的な彼らしいなと思った。私の気も知らないで。
別れてから1ヶ月経って、2人で旅行に行ったときに利用したGo To トラベルの返金がされた。
彼の分、貰ってもいいかなって思ったけど、お金のことだからきちんとしたくて、彼に連絡を取り、返金分を渡すことになった。
「お金のことだから」と理由をつけたものの、ずっと私は彼に会いたかったんだと思う。
返金はきっと、口実でしかなかった。
車で彼を迎えに行き、公園の駐車場で別れてからの話をした。コロナの影響の話。進路の話。お互い好きだったバンドの話。最近聴いてる音楽をオススメしあった。
別れた後のお互いの恋愛観も話した。私は別れてから1人の男性に告白された。しかし、彼と別れたばかりで、気持ちの整理がついていないからと、断った。
私たちがこんなに愚かだから、神様は引き離したのだろうか
「まだ俺のこと好きなの?」
私は少し黙って答えた。
「吹っ切れたわけじゃない、でももう気持ちの整理はついてる。今日仮に、復縁するような話になっても、復縁はしない覚悟で来た」
少しの沈黙が流れて、彼が言った。
「今日でもう会うの最後だよね。…行かない?」
「私のこともう好きじゃないでしょ?そこに愛情はないよね?」
「うん。欲しかない」
彼らしいと思った。
もう少しだけ、君といたかった。
もう一度だけ、嘘でもいいから君に愛されてると感じたかった。
全てが終わって、彼が片付けている間、私は泣いていた。そんな私を見て、彼は悲しそうな顔をして抱きしめた。
さっきまで求めあっていたのに、後悔するかもしれないって分かっていたのに、馬鹿みたいだ。
私たちがこんなに愚かだから、神様は引き離したのだろうか。
本当に、今日で最後。もう2度と会えない。もう2度と、会わない。
お互いスマホを出して、2人を消した。
別れた時はくだらない話したくせに、静かに彼を送った。
「元気でね」
「元気でね」
フッと私の中で何かが切れた。
1人で帰る私は、笑ってた。