3年前、推しが結婚発表をした。姉のように慕い、憧れていた推しだった。
以前「(推ししか)甘えられる人がいない〜」と伝えたら、「いつかそういう人と結婚出来たらいいね」と言われたのを思い出した。推しにとって旦那はそんな人なんだろうか。

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推しに会えなくなり人生の目標を失くした私は、自分も好きな人と人生を歩みたいと考えた。そして、いつか出会うその人に選ばれるために可愛くなろうと思った。
髪を伸ばして、化粧も濃すぎずナチュラルに。できるだけスカートを履くようにし、癖のあるカラフルな服を着ることを諦める。
そんな努力も実り私はすっかり「可愛い」女の子になったが、それでも何かが足りていなかった。

そこで男性芸人が好きだったこともあり、自分も「面白い」人になれば良いんじゃないかとお笑いの養成所に入った。

養成所でも周りの人から可愛らしい女の子として認識された。それが滑稽で、そんな自分のような女の子を題材にネタを書いた。でも周りから受けた感想は「可愛い」ばかり。笑っちゃうくらいチグハグな人間を描いたはずなのに……違和感があった。
男女コンビを組んだ時も、ただただ一人の人間として接していたのに「男女のネタは恋愛以外思いつかない」と言われ、すぐに解散した。男女の関係性なんて他にいくらでもあるだろ。
性別を意識せず楽しく話していた相手が、急に男性として接してきたこともあった。悲しかった。

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よく考えてみれば、今まで常に女性の多い環境に身を置いてきたのだと思う。それに比べてお笑いの養成所には同世代の男性ばかり。気づくきっかけがなかっただけで、最初からずっと私は女性でしかなかったのだ。

しかし、やっと手に入れた憧れの女性性は、喜ばしいものではなかった。相手に女性だと認識されているだけで、どこか不快に感じてしまうことが続いた。
なぜこんなにも気分が良くないのかと不思議になり、いくつかのサイトでセクシャリティ診断のようなものを受けてみた。

結果によると、私の表現したい性は「ノンバイナリー」だそうで。男性にも女性にも当てはまらない、当てはめたくないという考えらしい。正直、男性と関わったことで傷ついて考え方に偏りが出ている可能性もあるし、わかるようなわからないような……というのが感想だ。

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とはいえ少しは思い当たる節があった。
昔から「男・女」という選択肢から「女」を選ぶことに喜びを感じていた。自分の中に存在しないと思っていた「女」を表現できるから。

思春期にはあえてピンクのものばかりを選んだ。女の子らしさの象徴とされるピンクを選べる自分が嬉しかったから。

お笑いにおいても、女性を少し下に見ている男性が不思議で仕方なかった。女性でも面白い人はたくさんいるのに。逆に「芸人って以前に女だ」と言う同期の女の子も不思議だった。なんでそんなに性別にこだわるんだろうか、と。

それらは根本的に「自分は女性ではない」という前提認識があるから感じたことなのかもしれない。
だとすると私はこの3年間ずっと、自分の気質に合わない努力をしていたことになる。そんな自分として誰かに選ばれても幸せなんだろうか?いや、そうとは思えない。なんで私はもっとはやくに気づかなかったんだろう……心の底から自分が滑稽に思えた。

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最近髪を切った。バッサリと。女性らしいというより、少し個性的。でもかなり気に入っている。
服もたくさん捨てた。着たいものを残した結果、カジュアルな服ばかりになった。
「このせいで好きになった人に選ばれなかったらどうしよう……」

そんな不安もあるけれど、自分らしく生きていればどんな形でだって愛してくれる人はきっといると信じたい。

「可愛い」も「面白い」もしっくりこなくて、お笑いも辞めた。自分は「かしこい」や「優しい」が欲しいんだと気づいたからだ。

外見も中身も自分らしく。ここから私の新しいスタートが始まるのかもしれない。いや、始めてやる。

今後自分がどんな人生を送るかは想像出来ない。甘えられる旦那に出会えるのかはわからないし(そもそもそんな存在が必要なのかもあやしくなってきた)、セクシャリティも変化するかもしれないし。わからないことだらけだ。

だからまずは一つ一つ丁寧に、私が私でいるための選択をしていこうと思う。