私は中高と女子校で、恋愛なんて程遠い、充実した世界に生きていた。
受験生の夏、招待を受け、塾の夏期講習に通った。当たり前だが、そこには男子生徒もいた。同じ高校の人の中には出会いを求めて、塾に通う人もいたが、私は恋愛に関心がなく、よりハイレベルな人と共に勉強することを目的に招待を受けることにした。

受講できる授業自体はそこまで多くなかったが、自習室の空いている時間が高校の自習室よりも長かったため、毎日、塾の営業時間(朝から晩まで)通い続けた。私はいつも同じ教室の同じ場所に座っていた。

◎          ◎

お盆頃、私は自分に向けられた隣の席の人の視線に気づいた。初めて気づいた時、私は気づかないふりをした。その日、トイレに行く時、そっと隣を見ると、勉強に集中している彼がいた。彼の横顔は美しかった。

その日から、私は彼のことを意識してしまうようになっていた。勉強をするために、来ているはずなのに。また、私の気のせいかもしれないが、彼の私への接近は多くなっていった。

例えば、私がトイレに行ったら彼も席を立った。これがキライな人だったらストーカーだと感じただろうに、私は彼とすれ違えることを嬉しく思うようになっていた。恋愛をしたことがない私にはわからないが、おそらくこの気持ちを恋というのではないだろうか。

彼の制服から推察するに、弟と同じ学校の生徒だった。それだけではなく、弟の同級生だということが判明した。

もしかしたら、私は彼のことが好きだったのかもしれない。しかし、弟の同級生と付き合うことは、なぜか当時の私のプライドが許さなかった。

もし、弟の同級生でなければお互い切磋琢磨しあえる関係として付き合っていたかもしれない。私の勘違いでなければ、お互いにお互いのことを意識していたのだから。

絶対に叶えられない思いだ、と悟ったというよりも、決めつけた。私はこのままではお互いに学業に支障が出てしまうことを懸念した。私も恋愛ではなく勉強に集中したいし、彼もぜひとも勉強に集中して第一志望に受かってほしかった。彼らの通う高校は私の高校よりも進学校であったし、それなりに賢いはずだったから。私ごときに気を取られて、受験に失敗してほしくなかった。

◎          ◎

私は、大学で再会できることを期待しつつ、ある日、弟に彼の行動が気持ち悪いからやめるように伝えてほしい、と相談した。

次の日から、彼は現れなくなった。弟が彼に話してくれ、本人にも自覚があったようで、やめると宣言したそうだ。

私はどこか寂しいような気がした。しかし、お互いのためにこれで良かったんだよね、と信じた。

彼の横顔は美化され、いまだに私のまぶたに残っている。大学に入学した年にコロナ感染症が拡大し、出会いの場が激減したこともあるのか、それ以来、私が誰かに想いを寄せるということは起きていない、

もし、再会することができれば胸の内を全部告白してしまいたい。でも、私の通う大学に彼はいない。一度気持ち悪いと言ってしまった彼のことを、私はもう弟に尋ねることはできない。

私の青春は、勉強とプライドに終わってしまった。