「私ね、結婚することになったの」
ドキドキした。こんな連絡がきて、恋人だった元彼のあなたはどう思うだろうと。

「わかもついに結婚かぁ。おめでとう!」
意外とあっさりした返事がきた。内心、なんだ、特に何とも思ってなかったのかと、少し反応にがっかりしたところもあった。
でも、結婚することを伝えてから、たびたびメッセージが来るようになった。
準備進んでる?ドレス姿、絶対綺麗だろうなぁ。昔からめっちゃ可愛かったし。体調とか大丈夫?なんかいるものとかない?

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そんなメッセージにほっこりしてしまう。ひと回りも年上の元彼が可愛く感じる。もう別れて10年も経つのに、細々と繋がっている元彼。
互いに会うことはほぼなくなったが、SNS上ではまだやりとりが続いている。

しかし、元彼が心配してくれる中、結婚式の準備はうまくはいかなかった。夫になるはずの今の彼は結婚することには賛成だが、式をあげることには乗り気ではなかった。多額の金額を注ぎ込んでまで、やりたくない式をあげることに不満を口にしていた。
誓いの言葉も考えたくない。新郎のスピーチも考えたくない。謝辞もやりたくない。わかが全部考えておいて。

彼はほぼ何も準備をしなかった。彼の親戚への連絡も私がやった。
仕事をしながら、結婚式の準備をするのは大変だった。幸いにも姉や母が手伝ってくれたが、それでも22時まで働いて、そのあと結婚式の準備となると、睡眠時間が削られ、アトピーが悪化した。
正直結婚式が楽しみというより、挙げなければならない、こなさないとならないものになっていた。

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心配してくれている元彼に、準備がうまくいっていないことを告げた。

すると元彼は、「何でも話聞くよ。少しでも気が晴れるなら何だって聞く。困ってたら一緒に考える。わかは器用だから何でも乗り越えていけるとは思うけど、心配。理性がまさっちゃって、メッセージでのやり取りしかできないけど、わかのこと幸せになってほしいって心から思ってるから」と言ってくれた。

元彼の優しさに触れ、結婚式の準備を頑張ることができた。

私が相談した側だったのに、彼は言うのだ。

忙しい中、相手してくれてありがとう。

日に日にわかが結婚しちゃうのに、ワクワクと寂しさを感じる。
わかには、不安も不満も消えちゃうくらい幸せになってもらいたい。
あー、来世はまじ女性希望する。そうしたら気兼ねなくドレス一緒に見たりも買い物行ったりも出来たのになぁ。

わか、ファイト!俺の中でわかは輝いてる。悩みも不満も何とかしてあげたいけど力不足で、もどかしい。話だったら何だって聞くからね。

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元彼の言葉には愛があった。私の心を温かくしてくれた。
私にも理性がある。結婚相手がいるから、これ以上距離を詰めることはない。

でも、思うのだ。

元彼がもっと若かったら、もっと早く優しさに気づいていれば、私がもう少し早くこの世に生まれていたら、何か違う未来が待っていたのではないだろうかと。
いや、きっとそうであったとしても結婚までは至らなかっただろう。きっと元彼とは、こういう関係になる運命だったんだ。何となくそう思う。理由は私にもわからないが、元彼はある意味特別な存在だった。

今の私にとって元彼は、私の心の支えになっている。結婚するわけでも、これから会うわけでもないが、ただメッセージのやりとりをするだけで互いに支えられた気になっている。

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結婚してうまくいくかと言われると、正直不安だ。
でも、私は支えられて生きている。
結婚式の準備をする中で気づいた。元彼に友人、家族や親戚、多くの人に支えられて29年間生きてこれたんだと。

恋した元彼とは、好きだけど、好きだから、きっとこれからもこの距離感のまま。
ありがとね。私、明日結婚式挙げてくる。あなたは見にこないけど、私はあなたが言ってくれたみたいに輝いてくるよ。

令和5年3月5日、夏目わかは結婚式を挙げた。友人や親戚、両親が「いい式だった、感動した」と泣いてくれていた。もいい式になったと思う。支えてくれたたくさんの人に感謝を伝えたい。
ありがとう!