私の友人は、声優の仕事をしている。
アニメに憧れ、コミュニティスクールくらいの軽い気持ちで入った声優の養成所。動機は思わず笑ってしまうくらい単純だったものの、お芝居の道はそれなりに楽しく、切磋琢磨できる友人にも何人か巡り会えた。
そして、幾千の夜を飲み明かした唯一無二の友人である彼女が、今も声優業界に身を置き、活動を続けている、というわけだ。
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彼女の話を聞くと、「やはり私には声優は勤まらなかったな」と身に染みて感じる。
重たい守秘義務。徹底した体調管理。それでもスタジオに感染者がいればインフルエンザや新型コロナの感染は避けられないところ。
なにより、金銭の発生しないどころか、逆に身銭を切ることさえある事前準備が必要不可欠な点は、会社に守られた働き方に慣れきった私にはなかなかなじめなかった。
しかし彼女は逆に、会社勤めがなかなか続かずに悩んでいた過去を持つことを、私は知っている。マニュアル仕事は苦手だし、かといって仕事と仕事の行間を想像で補うことにも彼女は不得手だった。
過去、私が働いていたコールセンターの仕事を彼女に紹介したことがあるが、マニュアル整備が行き届かない点を自分で調べて解決する私のことを、珍獣かなにかでも見るような目つきで見ていたことは今でも忘れない。
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世の中の多くの人が、そうして得手・不得手を抱えているものだと感じる。
凹凸、というと近年では障害だけをさすような言葉になってしまったが、もっと些細な凹凸、向き不向きも世の中にはたくさんある。
例えば私は音の刺激に弱く、デスクの周りに声の大きな人がいると集中力を削がれてしまうし、喫茶店などでも細かい作業はできないタイプだ。彼女と比較すると、努力の積み上げ方もそうだし、人脈の作り方も私には真似出来ない。私は人間関係を深めていくことに些か苦手意識があって、ドライな関係性を好むタイプなので、人脈を作るのが苦手なのだ。
その他にも、例えば単純作業や営業行為は得意不得意が分かれる作業の代表格だと思う。これを読んでいるあなたにも、思い当たる得意や不得意がいくつかあるのではないだろうか。
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彼女に嫉妬がまったくないといえば嘘になるけれど、夢破れた立場の私が今も彼女と友人でいられているのは、私が自分自身や彼女の凹凸を知っているからだと感じる。
私には彼女にはない強みがあり、逆に声優という仕事にはなじめない弱みがあることを知っている。
そして彼女にも声優の仕事に向いている強みがあり、その他の仕事に適さない弱みがあることを知っている。
だから諦めもついたし、素直に彼女の成功を祈りながら、自分のフィールドで働いている今の自分を許容できるのだと思う。
そして、各々がその凹凸を活かしながら、自分のフィールドで働いていけるのがこの社会の描く理想の形ではないだろうか。
願わくば、あなたも自分の凸凹を理解し、自分だけのフィールドを見つけられるよう。
そしてわたしの才能溢れる友人が、声優というフィールドで大きく躍進してくれることを心から祈っている。