私は去年の春に今の部署へと異動し、そろそろ1年が経とうとしている。
異動の2ヶ月前は、結婚も考えていた彼氏と別れたばかりだったので、去年は公私ともに激動の時期だったと思う。
ただし、自分の時間も労力も仕事に割けるのでむしろ好都合だと思ったくらい、私のなかでは「仕事」が人生のうちの大半を占める考えごとである。

周りからの「天然」の言葉に焦りながらも、笑って誤魔化していた

一方で異動前の部署で、私は「無能」と言われていた。
書類作成でミスを連発し、要領が悪く段取りを立てられない。合意形成の順番をしくじり、トラブルを起こす。間違えた手順で物事を進め、教わったことの応用が効かない。マニュアルに書いてあることを読み取れず、言われたことの趣旨を取り違える。先輩のことをうまく立てられず、上司に生意気なことを口走っては嫌われる。

なぜか私は、いつも周りと噛み合わないことを考えているようだ。それは研修の段階でうっすら自分でも感じており、同期と一緒に話していても、常にワンテンポ遅れズレたことを発言しては「天然」といじられた。内心焦りをおぼえながらも我慢して笑っているほかなかった。

配属されてからはその無能ぶりが顕著にあらわれた。見当違いなことをして嫌な顔をされ、必要な物事の準備を失念してどやされ、とにかくダメなやつだった。

異動してから、今回はうまくやらなければと心に決めた。こういう時には初心にもどるいい機会でもある。
今度は変に見切り発車をせず、すべて先輩の言う通りにし、自分の意見は二の次。周りの様子や温度感を伺ってはどうにかチューニングしていた。
異動先は優秀な人をかき集めたような精鋭の部署で、私は初めからどう考えても場にそぐわない人材だった。

親切な周囲を裏切りたくはないけど、私自身が私を裏切っていた

この面々に変なやつだと思われぬよう、無害で実直な人間を目指した。自己紹介は手短かつシンプルにし、周りから教わったことは全てメモして一つのエクセルにまとめておく。ミスはすべて記録して見返せるようにする。
それでも毎日すさまじい劣等感に襲われた。どうにかついていこうと努めても無限にわからないことが湧いてくるし、自力でどうにもできないことが日々起こる。
先輩・後輩とも親切すぎるくらい親切に教えてくれるので裏切りたくないが、自分の不注意と貧相な頭が私自身をも裏切ってくるのでヒヤヒヤする。
手際がよく状況把握の早い先輩たちを見ていると、妬ましくてたまらなくなってくる。

なにより悲惨なのは、自分にある底なしの、「無力感」だ。
新人のときの数々の失敗体験。私が言っても無駄、私がやっても無駄。雑談ですら発言するのを放棄してしまう。どうせうまく話せないしスマートに振る舞えない。当日までにいろいろと準備をしてきても、自分の言葉や行動に対する、周りからの冷笑が怖い。

仕事への気持ちは、腐れ縁の幼馴染へ抱くこじれた片思いみたいでだ

仕事に対しての私の気持ちは、腐れ縁のおさななじみへのこじれた片思いみたいだ。
仕事を思う気持ちに依存気味で、嫌い嫌いと言いながらも毎日顔を合わせるという、なんだか中途半端で妙な関係性。いやだいやだと言いながら休日もなんとなくそのことを考えてしまうし、仕事のために勉強などして自分の時間を費やしてしまう。そんな感じだからか、どこか報われない。

たまには別のことを考えてメリハリをつけないと、仕事も私が重い女だと感じて逃げていってしまうかもしれない。