学生時代の頃から振り返ってみても、私はあまり「先輩」という立場に立ったことがない。
まず、中学時代に所属していた書道部。
入ってきた後輩はたった1人。とはいえ、初めてできた後輩は嬉しいものだった。同級生の部員みんなでいたく可愛がった。
ただ、いかんせんこじんまりとした部活だったせいか、先輩後輩というよりも友達同士でじゃれ合っている空気感が色濃かったような気がする。
高校時代も書道部に入部したものの、訳あって半年ほどで辞めてしまった。
その後転部した調理部は活動ペースが非常にゆるく、私はほぼ幽霊部員的存在だった。後輩はある程度の数入ってきたはずだが、ほとんど接点がないままひっそり引退した。
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学校を卒業した後も似たような感じだった。
新卒で入社した会社は4年ほど勤めたものの、直属の後輩ができることはなかった。
そもそも新卒採用を毎年行っているような会社ではなかったし、中途で入ってくる社員は私よりも随分年上であることがほとんどだった。仮に年齢が近い社員が入ってきても、いずれも部署が違った。
その後は短期離職を繰り返し、結局後輩らしい後輩ができないまま、フリーランスの身である今に至る。
そんな、人にものを教えたりアドバイスしたりといった経験が乏しい私だが、ここ最近は「そうか、私は先輩なのか」とふと思う場面がよく訪れる。
それは、妹とLINEのやり取りをしているときのことだ。
私には、妹が1人いる。ただ、妹といっても年齢は1つしか変わらない。ほぼ同じ目線で育ってきたからか、幼い頃から「きょうだい」という感覚はあまりなかった。実際、たとえば私から宿題を教えたり、就活の相談に乗ったりといった経験は皆無だった。
そんな妹から届く最近のLINEの内容なのだが、主に結婚や引越しにまつわるものが多い。妹は、交際中の彼と年内には同棲・入籍をする予定のようだった。
入籍前には具体的に何をどういう段取りで行えばよいのか。
両家顔合わせ等の挨拶はどういった雰囲気なのか。手土産は何がいいのか。
内見はいつ頃行った方がいいのか。あまり早すぎても良くないのか。
入籍には何の書類が必要なのか。
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検索すればすぐ答えが出てくるであろうものも含め、ありとあらゆる質問メッセージが連日飛んでくる。そしてその都度、私は1年前の記憶を引っ張り出す。いま現在の妹の姿は、イコール去年の私でもあった。
「これはどうしたらいいの」「あれはどうしたらいいの」と妹からメッセージが送られてくるたび、微笑ましいような、こそばゆいような、何とも言えない不思議な気持ちに満たされる。
元はと言えば、きっと私は生涯結婚なんてできないだろうと思っていた。誰といてもすぐに気疲れしてしまう私が、1人の人とずっと一緒に暮らすなんて到底無理だと当たり前のように諦めていた。
一方、私のようにひねくれておらず、あっけらかんとした愛嬌を持ち合わせている妹は、いずれは誰かと結婚してかわいい子どもも産んだりするのだろうと容易く想像できた。
ところがどっこい、人生とは何がどうなるのか本当にわからないもので、去年私は結婚した。仮に結婚するにしても、まさか妹より早いとは思いもしなかった。
結婚の報告をした際、妹は手放しで喜んでくれた。私にはあまり姉らしさはなく、それどころか昔から妹に対してはありとあらゆる迷惑をかけ続けてきた。嫌われても、疎まれてもおかしくないと常々思っているのに、妹は今も変わらずのんびりとした素直さをもって私に接してくれる。離れて暮らすようになっても、他愛のないメッセージをよく送ってくれる。
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それによくよく思い返せば、例えば一緒に洋服を買いに行ったときは「どっちがいいかな?」とジャッジを任されていたし、元カレといざこざがあったときは「もうどうしたらいいの」と2人のトーク画面のスクリーンショットがそのまま送られてきたりしたこともあった。なんだかんだで、妹に意見を求められる場面は少なくなかったのかもしれない。
長い人生における新たな一歩を踏み出そうとしている妹。
信頼のおけるパートナーと家庭を築くようになれば、自ずと私を頼る場面も減ってくるだろう。そう思うとほんのり寂しさが募る。
先日初めて会った妹の婚約者は、朗らかかつ頼もしさのある人だった。素敵なパートナーを見つけたね、と素直に思う。
あまり先輩らしくも、姉らしくもない私だけれど、この先も妹が妹であることに変わりはない。
お互い別々の家族と人生を歩んでいくようになっても、姉妹の絆は今まで通りゆるく長く続いていけばいいなと思う。