令和5年3月5日、夏目わかは結婚した。
コロナのこともあり、あまり多くの人を式に呼ばなかった。家族と親戚、数人の友人。それでも6年付き合ってようやくあげられた結婚式。準備は大変で、彼とも揉めたが、何とか結婚式当日を迎えることができた。

◎          ◎

挙式のリハーサルをし、準備が整い、チャペルの扉の前に立つ。
では、行ってらっしゃい!
式場のプランナーさんに声をかけられ、チャペルの扉が開く。
母がベールダウンし、父とともにバージンロードを歩き始める。
みんなの温かい拍手に喜びを感じながら、私が笑顔で歩いていると、1人、ボロボロと泣いている人がいた。幼馴染だった。
驚いた。あれほど泣いている姿なんて、ほとんど見たことがなかったからだ。

幼馴染とは幼稚園の頃から仲良しだった。家も近所で、幼稚園から高校まで同じところへ通った。大学でバラバラになってからは、会うことがほとんどなくなってしまった。最後に会ったのは、1年前の幼馴染の出産のお祝いだったと思う。久々の再会を笑顔で交わす予定だったが、幼馴染は顔を手の平で覆い泣いていた。
チャペルでの挙式を終え、ガーデンでの記念撮影でも、幼馴染は涙を浮かべ「だってだって……」と言葉にならない感じだった。でも、なんとなく私に何かを訴えかけているような気がした。
そんな幼馴染の姿を、隣で不思議そうに見つめる彼。私も「なんでそんなに泣いてんの?」と微笑みながら話しかける。
すると、幼馴染はおもむろに彼の前に立ち、
「わかチーを、私の大事なわかチーを泣かせたら許さないんだからね!」と強く言い彼の腕を軽く叩いた。彼は苦笑いだったが、私は嬉しかった。私のことを大事にしてくれていることを実感できたから。

◎          ◎

結婚式は無事に終わり、家に帰ると号泣していた幼馴染からLINEが届いていた。
「式に招待してくれてありがとう、そして改めて結婚おめでとう!
なんかさ、待合室に置いてあったアルバム見てさ、ちっちゃいわかチーが、一緒に成長して、とっても綺麗になって、めちゃ幸せそうな笑顔してるやんって思ったらめちゃくちゃ泣けちゃった。いつもはあんな泣かんよ!」
号泣していた真相が明らかになった。結婚式場の待合室に、幼馴染と一緒に写った写真も多く飾っていた。私もアルバムを作るときに、一緒に成長したんだなぁと、しみじみ感じていたことを思い出した。
そして幼馴染は続けてLINEを送ってきていた。
「私の大事なわかチーをって恨めしい気持ちが、思わず隣のパートナーさんにもいってしまった。お詫び申し上げます…と伝えといてください」
と、何とも愛らしいメッセージがきていた。彼に嫉妬してくれたんだと思うと、幼馴染が愛おしくてたまらなくなった。
そして、メッセージの最後はこう締めくくられていた。
「付き合いが長いからさ、これまでいっぱいしゃべって、気持ちの面でもいっぱい支えてもらったなって実感したよ」
胸が熱くなった。私もだよ……と私は一人つぶやいた。

◎          ◎

正直、結婚式を挙げるまでは、苦労が絶えなかった。周りは楽しんで!というが、準備は楽しいよりも大変がずっと勝っていた。
でも、結婚式を挙げてわかった。
家族や親戚、友人や教え子、そして幼馴染に祝福され、みんなに大事にされていたことを再認識できた。自分が幸せ者だということに気づいた。
私よりも先に涙する幼馴染を見て、愛されていたんだと実感すると、もう…それはたまらなく嬉しかった。
人とのつながりは大事にしないといけないなと改めて思った。
これまで生きてきて、辛かったこともあったが、大切に思ってくれている人がいると思うと、自分が生きている価値があったんだ。生きてきてよかったと思えた。
そういうことに気づかせてくれた幼馴染は、本当に推せる最高の友だと自信を持って言える。